第23話 敵機直上、急降下!

 空母マーズの上空でシュトゥルム六機編隊が一斉に急降下に移った。スロットルを絞りエアブレーキを開き、対空砲火には構わずに甲板目掛けて一直線に。


 国防軍は急降下爆撃に於いて編隊一斉投弾戦法を採用している。これは編隊全機一斉に投弾することで面を攻撃する方法だ。


 「面舵一杯、急げ!」


 強力な慣性で左に体が揺れる。とはいえ空母程の巨艦はそう機敏には動けない。


 やっと右に舵が効き始めたところで1トン爆弾が二発、船首と中央辺りに被弾した。


 命中する瞬間をマリーンマンは見ていた。世界の全てがスローモーションだった。ゆっくりゆっくり進み行く中でマリーンマンは克明に世界を見ていた。爆弾が甲板に突き刺さり、食い破り艦内へと消えていく。


 不発であれ、と何度も祈った。頼む、頼むから。


 世界の遅さゆえに不発かと思った。


 でも違った。爆弾が破った甲板の穴から猛烈な炎が噴き出してきた。次の瞬間、世界はまた通常の時間感覚に戻り凄まじい音と衝撃に見舞われ、体を激しく揺さぶられて艦橋にいた全員、どこかしら体を強く打った。


 格納庫内には爆弾や魚雷こそなかったものの、発艦できなかった戦闘機が燃料満タンの状態で駐機してあり、一気に誘爆した。航空機用のガソリンは通常のものより高オクタンであり、引火したならより甚大な被害をもたらす。爆発は艦体側面を食い破り、炎は一瞬にして格納庫内を覆い尽くし例外無く全員を燃やし尽くした。


 「クソ!損害知らせ!」


 強打し、ズキズキと痛む頭部を押さえながらマリーンマンは叫んだ。とは言え被弾してすぐ報告が飛んでくる訳はない。


 マリーンマンは周りを見渡した。艦橋の中で一人、頭をぶつけて気を失い出血している。一人、艦橋のガラスが腕に突き刺さっていた。


 爆発の衝撃で艦橋の窓ガラスが割れたことにより黒煙が流入してきており、艦橋内は煙たくなって咳き込んだ。


 マリーンマンは思わず窓辺へ寄って黒煙の立ち昇る先を見た。もう無い窓を通して見るドス黒い黒煙はどこまでも、それこそ天にでも届くんじゃないかと言うほどだった。


 損害のほどを考えてマリーンマンが呆然としていると損害報告が入り始めた。


 「報告!第一、第二格納甲板にて火災発生!火の勢いが凄まじく消化困難です!」


 「科員居住区にも同様に火災発生!現在消化作業中!」


 「こちら機関室、異常無し!依然として全速航行可能です!」


 報告をまとめると大規模な火災が発生しているものの、航行可能なのだから艦は生きている。沈みはしない。


 全般的に帝国軍の艦船は防御に重きを置いている。その成果と言えた。


 「こちら対空指揮所、黒煙のため対空戦闘著しく困難です!」


 対空戦闘中の艦船にとってかなり致命的な報告が飛んで来た。火災煙が物理的に視界を遮っていた。必然的に撃ち上げられる砲火はまばらになる。


 攻撃側からすれば反撃が来ないだけで非常に攻撃しやすい。


 「敵機四機、左舷、十一時及び八時方向より二機づつ接近!」


 「何……」


 敵機の針路からして面舵、取り舵、どちらを選択しても片方には船腹を晒してしまう。


 「面舵一杯、急げ!」


 左へ舵を切ったら左舷対空陣地群が煙に呑まれて対空戦闘が行えなくなる。そのため右へ舵を取る。


 「よーそろー、面舵一杯!」


 一時方向に艦首が向き始める。


 右に艦が動いたことで黒煙が右舷側の対空陣地群を覆うがマリーンマンの狙い通り敵機が迫る左舷側は依然戦闘可能だ。


 「七時の敵機二機、魚雷投下!」


 「十二時の敵機一機魚雷投下!一機依然として接近中!」

 

 魚雷を投下していない機は限界まで空母に近づくつもりらしかった。


 艦尾方向から来た魚雷は艦を挟みながら通過していった。直後に接近していた機が魚雷を投下した。


 敵機が艦首付近を右舷側へ抜け、そして魚雷が空母に突き刺さった。衝撃が艦を襲う。


 「第四区画に被雷、浸水発生!」


 「こちら第四機関室、浸水発っ」


 機関室からの報告が濁流音と共に途中で途絶えた。機関室が海水に呑まれてしまったのだ。空母の速度がガクンと体感できるほどに落ちた。


 放たれていた魚雷最後の一本が艦首ギリギリを通過した。見張員が命中すると思って衝撃に備えるほど際どい所を通過した。


 帝国軍艦隊を覆った敵機は去っていた。空襲は終わったのだ。


 「艦速五ノットに落とせ。ダメージコントロールに全力を挙げろ」


 完全に止めてダメージコントロール及び応急修理に全力を上げるのが理想だがさすがに現状それはできない。敵機の第二波が迫っているかもしれないし、修理に時間を費やしている隙に潜水艦からの襲撃があるかもしれないからだ。


 空母は左に数度傾いているものの沈むことはない。ようやく一息つけたが一体どれ程の乗組員に被害が出たかと思うとマリーンマンは暗澹たる気持ちになった。

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