第22話 急降下爆撃

 丸裸になった帝国軍艦隊上空。そこに国防海軍艦載機部隊が襲い掛かる。


 呆気なく散った艦戦部隊に改めて彼我の差を思い知らされた帝国軍艦隊の面々だが当然それくらいで交戦意欲が失せるわけではない。


 主砲から対空機銃に至るまであらゆる火砲が火を噴く。たちまちにどこまでも蒼い空が砲弾の炸裂した黒煙や曳光弾で埋め尽くされた。


 マリーンマン艦長は空母艦橋の分厚い防弾ガラス越しに頼もしく思いながら空を見上げていた。しかし。


 「薄いな」


 攻撃機シュトゥルムに搭乗し帝国軍艦隊へ突入する全員がそう思っていた。対空砲火の密度もそうだが、高射砲弾の炸裂高度が散らばり過ぎているし、そもそも見当違いの方向に飛んでいっているものも見受けられる。


 事前の作戦に従い、各機散開しつつ空母を目指し輪形陣深くに突入する。最優先目標は艦隊防空のかなめであり航空攻撃の要である空母だ。


 現代の艦隊決戦において航空機の援護が無いということは一方的に敵航空機に殴られ続けるということしか意味しない。


 シュトゥルムは対空砲火の薄さゆえに大して損害を受けずグングンと輪形陣深くに入り込む。


 とうとう空母に接近しマリーンマン艦長のもとに見張員から報告が飛んでくる。


 「敵機二、右舷、四時方向より接近!」


 艦橋の全員が報告にあった方向を見た。逆ギャル翼の機体が海面スレスレを飛び、対空砲火の機関砲弾は機上を飛び越えていた。


 「取り舵一杯!よーそろー!」

 

 「よーそろー、取り舵一杯!」

 

 魚雷の針路から逃れるために左に舵を取る。見張り員が新たな動きをマリーンマンに伝える。


 「駆逐艦1145、敵機針路上に出ます!」

 

 「何?」


 双眼鏡から目を離すと確かに駆逐艦が敵機とこちらの間に割り込んできていた。身代わりになる気である。今度は双眼鏡で駆逐艦を見た。甲板上の動きが慌ただしい。


 国防軍の魚雷は非常に高威力だ。航空機に搭載するためにいくらか小型化されているがそれでも駆逐艦にとって致命的であることに変わりはない。それを駆逐艦で、しかも二本受けようというのである。


 駆逐艦内では艦内無線及び伝声管から艦長の命令が怒鳴り声と共に伝達された。


 「船内右舷科員、総員左舷側へ!総員退艦用意!」


 魚雷が命中するとすれば右舷。無駄な人死にを避けるためにも艦長はできるだけ人員を左舷へ、上甲板へと移す。


 二機の内一機は、ならばと目標を駆逐艦に移し、魚雷を投下した。水柱を立てて水面下に消えた魚雷は一直線に駆逐艦へと疾駆する。外すことのない距離。命中するまで時間は掛からない。

  

 「総員衝撃に備え!」


 艦長の下令後、すぐに凄まじい衝撃が駆逐艦1145を襲った。


 吹き飛ばされた艦長がなんとか状況を把握しようとした時には既に歩くのが困難なほど艦は傾いていた。


 魚雷によって船体には船上では修復不可能な穿孔せんこうが開けられ怒涛の勢いで海水が船内へ流れ込む。隔壁も魚雷の威力の前ではまるで役に立たなかった。


 一瞬で海水は機関室を満たしたちまちの内に機関停止へと追いやった。非常電源も失い人力を除く全てのダメージコントロールができなくなった。そして人力でどうにかできるダメージではない。


 直ちに総員退艦が発令され乗組員が甲板から次々海へ飛び込む。


 横滑りで駆逐艦を避けた敵機が空母マーズへ向け魚雷を投下した。マリーンマン含め艦橋の全員が釘付けになる。


 空母はその巨大さゆえに動き出すのが遅い。ようやく大きく左に動いているが魚雷を避けられるかは微妙なところだ。


 艦橋の高さのため魚雷が視界から消えた。命中するならすぐに立っていられないほどの衝撃が襲ってくる。心臓をこの世の者ならざる冷え切った手で掴まれているような感覚に襲われ、背中を冷たい汗が濡らす。


 果たして。嫌な数秒の沈黙の後、衝撃に襲われることはなかった。続けて報告が飛んでくる。


 「敵雷、本艦右舷を通過!」

 

 艦橋内の全員が胸を撫で下ろしたが艦橋横の見張り員には上空に翻る逆ガル翼が見えた。


 見張員は恐怖と共に叫んだ。


 「敵機直上、急降下!」

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