第11話 戦車前へ
スリン島帝国軍前線
艦砲射撃がその絶大な威力を遺憾無く発揮した土地を国防陸軍が戦車を先頭に進んでいた。帝国軍の塹壕を基にした防衛陣地は既にその機能を喪失している。上空にはロケット弾と爆弾を満載した攻撃機が飛行しており、敵部隊が現れた際はすぐさま攻撃できるよう目を光らせていた。
「恐ろしいな……」
国防陸軍戦車兵のクルツは四型中戦車の上で我知らずつぶやいた。
前方、帝国軍防衛陣地に戦車の砲塔が上下逆になって燃えているのが見えた。横向きになっている戦車も見える。
艦砲射撃の後とあって、かなり大きいクレーターもあり、戦車の乗り心地は非常に悪かったし、遊園地のアトラクションかと思うほど上下左右に傾いた。
突如一発の砲声がし、直後に着弾音が響き、土砂が舞い上げられた。僚車から敵戦車発見の報告が届く。
『二時方向敵戦車!』
艦砲射撃で吹き飛ばされた大量の土砂が降りかぶることでカモフラージュを施さなくても周囲に溶け込んでいたから撃たれるまで全く気付かなかった。
無線が怒鳴ると同時に曳光弾の短連射が敵戦車に向け放たれる。
次に四型中戦車の砲声が響いた。命中弾を受けた敵戦車はキューポラやハッチが吹き飛び、そこから炎が踊り出す。脱出者は無し。
鋭い金属音と衝撃がクルツを襲った。被弾した。
だが戦車に損害はなかった。弾いたのだ。突然の被弾に驚きながらもクルツの目は敵戦車が発砲した際の発砲煙と巻き上げられた土塊を見逃さなかった。
凝視し、さらにいると強く思ってみればかすかに戦車の砲塔らしき輪郭が見えた。
「十一時だ!距離二百!」
クルツもまた車載機銃で敵戦車の場所を砲手に知らせる。曳光弾が敵戦車の装甲で跳ねその位置を砲手に知らせる。すぐに砲がそちらを指向し、発射された。
命中後、砲塔内弾薬庫かあるいは装填手が抱えていたものに誘爆したのか、砲塔が吹き飛び上下逆になって車体の上に落下した。
危なかった。冷や汗がどっと湧き出ていた。4型中戦車の車体正面装甲は80mm。敵M/4中戦車の76mm砲では貫通されていても何ら不思議ではなかった。貫通を許さなかったのはひとえに追加装甲のおかげだった。
もともと対戦車銃転じて化学弾(HEAT)対策で側面や砲塔に付けていたものである。南部戦線では近距離での戦闘が予想されるため正面装甲にも傾斜をつけて設置されていた。
おかげで燃料は余計に喰う、エンジンへの負荷でより頻繁なメンテナンスが必要になったが乗員からすれば頼もしい限りだった。
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