第7話 待て

 「スピネル曹長、到着しました」


 トラックを破壊されたことで徒歩で目的地まで移動せざるを得なかったスピネルは中尉に着任を報告する。


 「ご苦労曹長。経験豊富な君が来てくれて嬉しいよ。ところで道中はどうだった?だいぶ到着が遅れたようだが」


 帝国軍中尉が応じた。


 「よくありません。道がぼこぼこでトラックの乗り心地は最悪でしたし空襲も受けました。それに狭い道で戦車がやられると退かすのにも一苦労です」


 「それはご苦労だった。早速だが君の部隊は寄せ集めだ。陣地構築は大半が終わってるから部隊の連携強化に力を入れてくれ」


 「了解しました、中尉」


 スピネル曹長が敬礼すると中尉は去っていった。


 スピネル曹長が配置されたのは最前線から少し引いたところにある第二防衛線だ。彼はこの一画で一個分隊約15人を指揮することになる。


 分隊の中には銃傷を負っているものもいたが銃器の取り扱いに困る者はいなかった。というか隻腕のスピネル曹長が例外だった。重症者からも志願させようと考えた帝国軍スリン島守備隊の参謀連だが、さすがに取り止めたのだ。移動時や陣地内での待機中の負荷に体が耐えられないだろうと判断してのことだった。


 ともかく、スピネル曹長は国防軍の攻勢が開始されるまで、部隊の練度向上及び若干の陣地構築に努めることになる。




×××××××××




 国防軍攻勢開始予想日の8日前。


 「どうやら部隊配置は間に合いそうだな」

 

 地下に設けられた司令部の中で、どこか一息つくようにランド少将は述べた。


 「ええ、遅れ気味ですが問題無く終わるでしょう。あとは待ち構えるのみです」


 参謀の一人がそう応じる。


 事前計画通りに部隊の配置は完了しつつあった。配置される部隊だが、実はさらに二個師団の抽出を余儀なくされていた。国防軍の空襲や特別工兵連隊の奇襲によって二個師団ほどが消滅したためである。戦闘ではなく移動で、という点で甚大な被害だった。


 ランド少将は意識を切り替え参謀にスリン島へ向かっている帝国軍艦隊について質問した。


 「救援艦隊から何か打電はないか?」


 「は、艦隊は現在も無線封止中のため何も連絡はありません。つまり作戦になんら支障はないということになります」


 事実、救援艦隊は国防海軍の潜水艦による小規模な攻撃こそ繰り返し受けているものの、作戦に支障は出ていなかった。毎回損害が出るという訳ではないし、損害を覚悟しての出撃だから多少撃沈されるぐらいなら痛くも痒くもないのだ。


 「うん、それでは待とうか」

 

 要するに異常無しとの報告にランド少将は安堵を覚えながら頷いた。

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