第6話 航空攻撃
スピネル軍曹は他の兵と共にトラックに揺られながら前線へと向かっていた。腰にはあの日中尉が持ってきた拳銃をホルスターに入れて吊っていた。
ただ使うことはないと思ってる。戦場となるのは木々が生い茂る足場の悪い場所だから拳銃を手に持っての移動は厳しいものがある。それにスピネルに期待されているのは分隊の掌握と指揮。使うことがあるとすれば……、最後の瞬間だろう。
共にトラックで揺られている面々は全員が野戦病院から来た兵だった。全員が全員栄養不足で頬がこけ、顔色が悪かった。それでも四肢を失っているのはスピネルだけだ。
トラックから見える景色は映像として目に入ってきてはいても脳がそれを情報として処理しない。多分、脳が無意識に情報処理に掛ける労力をカットしているのだろう。
景色を流しているとトラックが減速した。車体が前に傾き、ガタンと大きな振動が来る。どうやら道路に大穴が空いてるようだ。
周囲に注意を払ってみると横転して道からどかされたトラックがあるし、腐臭も漂っている気がする。
再びガタンと大きくトラックが揺れた。
「うぐっ」
横にいた兵の一人が唸り声を上げて足を抱えた。その顔には脂汗が浮いている。こいつは足に弾を受けて野戦病院にいた。戦場になんとか戻れるくらいには治癒していたようだが変に揺れた衝撃をもろに受けてしまったらしい。
ガタガタと変わらず揺れるトラックに身を任せていると隊列後方の空に点があるのに気付いた。
それは急速に形を逆ガル翼機へと変えていき、甲高いエンジン音を響かせる。両翼にロケット弾を懸架した国防軍の攻撃機、シュトゥルムが迫っていた。
「敵機だ!」
スピネルが言い終わらない内から敵機は機銃掃射を加えながらロケットを撃ち込んできた。
スピネルが乗っていたトラックの二つ後ろのトラックが直撃を受けたのか前転するように宙を舞うのが見えた。機銃掃射がトラックを襲い何人かの兵を殺した。飢餓で痩せ細っている体はさぞ易々と貫かれたろう。
そしてトラック前方に着弾があり、トラックは急制動を掛けられた。飢餓と、それから左腕を失ったことで相当軽くなったとは言え成人であるスピネルの体が浮いた。そのまま思いっきりトラックの進行方向であった左側に叩き付けられた。
「うわっ!」
「ぎゃあっ!」
何人もの悲鳴や呻きが重なった。
急いで起きたスピネルはトラックが火災を起こしていることに気付いた。大方、ロケット弾の破片がエンジンに飛び込んだんだろう。
「退避ーっ!」
言葉少なにそう叫ぶととにかく急いでトラックから脱出する。既に火の手は荷台の幌にまで回っていた。
体が十全であった頃は何ともなかったのに、今はトラックから飛び降りた着地で体が悲鳴を上げた。それでもそんな痛みは無視して一目散に路外に生い茂る木々の下へと走る。後ろからの爆風がスピネルを茂みへと放り投げた。
変な姿勢で着地したために痛めた右肩の辺りを抱き抱えながら車列の方を見た。ついさっきまで乗っていたトラックは完全に炎に包まれている。一つ後ろを走っていたトラックは直撃を受けたか、荷台部分は完全に消し飛び、わずかエンジン周りが転がるだけだった。
木々の隙間から上空を飛ぶ行くシュトゥルムの翼が見えた。
機銃掃射を喰らわないように木々の奥に逃げ込む。敵機がするとすれば道の近くを狙うはずだ。奥の方は生い茂った木や枝が弾を防ぐ。
やはり空襲は終わっていなかったらしく、甲高いエンジン音に加えて鋭く、まるでミシンの様に連続する銃声が聞こえてきた。
7.92mm弾が葉を
スピネルの視線の先で掃射が一人の兵士を凪倒した。左から右にカーテンが幕を引くみたいな着弾の連続が兵士を捉え、右腕の肘から先が元々そうなるのが自然かの様に外れた。腹の辺りを貫かれたその兵士は極々短い悲鳴を上げるとその場に伏してパッタリと動かなくなった。
空襲が終わってスピネルはその兵士を見た。銃弾が作った木漏れ日の中、うずくまる様に兵士は死んいた。銃弾が引き裂いた下腹部は焦げ、腸や内臓が飛び出ている。胴体はほとんどなき別れていた。
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