第4話 深夜、水中から
深夜、大洋にて
やはり凄まじい数だな……。
国防海軍潜水艦隊は帝国海軍大艦隊を捕捉、攻撃に向け各艦が準備を進めていた。
その中の一隻に一週間程前、この大艦隊を発見した潜水艦もいた。
艦長は潜望鏡と副官が渡してくれた敵艦のデータが記載されている本を用いて敵艦隊との距離、それから的速を弾き出す。
「魚雷戦用意、敵艦距離10km、方位0-8-5、魚雷深度3m。第一弾雷撃後直ちに二、三、四、弾発射を行う」
このS-3型潜水艦の魚雷搭載数は30本。六本ある発射管ないにそれぞれと艦内に24本である。今回発射するのは合計24本。大盤振る舞いと言えるが艦長は別に気にしていなかった。なぜなら一週間もあればスリン島に行って補給を受けられるし、敵海軍が大規模行動中なら独行艦に会う可能性も無さそうだった。なにより目の前には水平線を埋め尽くさんほどの大艦隊だ。大雑把な狙いでも命中が期待できる。
少しして攻撃開始を意味する暗号電が送られてきた。
「発射!」
艦長がそう下令し、水雷長が復唱し、魚雷は発射された。
帝国軍スリン島救援艦隊の中の輸送船団の一隻、艦橋横の出っ張りに男が一人、見張りに立っていた。見張りとは言っても周囲は駆逐艦や重巡洋艦ががっしりと固めているから特に気を張るようなことはない。怠けはしないが心地良い夜風に身を任せている。
深夜の大洋は全てを呑み込んでしまいそうな程静かで深い。灯火管制のため周囲に目をやっても船の輪郭がかろうじて見分けられるくらいだが、空を見上げれば眩いばかりの星々が輝いていた。いつ見たってあの星の海には感嘆の息しか出ない。
遥かなる星々に思いを馳せている彼を邪魔するかのようにくぐもった爆発音が聞こえてきた。ギョッとして音がした方を見てみれば駆逐艦を超える高さの水柱が上がっていた。
「艦長!」
彼は艦長に向かって叫ぶ。何が起きたかなんて一目瞭然だった。
「総員対潜警戒!魚雷を警戒しろ!」
艦内放送で艦長がそう命令を下達すると非番の船員も飛び起きて皆甲板へ向かった。目視で魚雷を警戒するのだ。
とは言え国防軍が使用するのは酸素魚雷であり航跡を残さない。純酸素を燃焼に利用し、燃焼後は排出される二酸化炭素が水に良く溶けるためだ。これに夜間という条件が加わるとほとんどもう発見不可能と言っていい。
サーチライトを海面に走らせて捜索する、という手もあるが補給船がサーチライトなんて載んでないし、もし使えるとしても二次攻撃が行われれば絶好の的になってしまう。
実は魚雷が発射された最初の700mは始動用圧縮空気で動いているため航跡は残るのだが、攻撃される側からすればどうせ見えない。
周囲の艦船に次々と魚雷が命中する。右前方の補給船が被雷した。補給船の防御設備なんてたかが知れている。小型の爆弾でさえ致命傷になるのに戦艦すら仕留める威力がある魚雷を喰らえばどうなるか。
魚雷は深々と補給船に突き刺さり水柱は構造材諸共高く宙へと舞い上げる。浸水による傾斜なんてものは無く、魚雷の爆発は船体を引き裂きもう水上にあるのは酷く傾いた船尾のみ。水柱が消えるのと同時に船体も海の波間に沈んでいった。生存者は望めないだろう。
唇は
突然、体全体を突き上げるような衝撃が男を襲った。
「うわっ!」
咄嗟に体を丸めて手酷く体をどこかにぶつけるのを防ぐ。平衡感覚を失い、目を開けた時、目の前は濃い藍色。いや、海面だった。
水面下に沈む船体。急いで手すりから手を離して水面へ浮かぼうとするが沈む船が発生させる渦によって体が水底へ引っ張られる。
こういう時、無理に抵抗するのは悪手だ。一旦渦が無くなるのを待って、それから海面目指して必死に手を掻いた。息が苦しい。
それでもなんとか浮かぶことができた。周囲に浮いている補給船の構造材に掴まる。夏の海と言えど夜なのだから冷える。
「クソっ!」
思わず毒付いた。大丈夫、味方は周りにたくさんいる。すぐに助けてもらえる。ほんの少しの辛抱だ。
結局、潜水艦の襲撃により帝国軍救援艦隊は輸送艦20隻、駆逐艦2隻が撃沈され、重巡1隻が大破の損害を負った。
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