第5話 志願する者は
最前線、帝国軍陣地の一つ。
「小隊総員傾注!」
小隊最先任の軍曹が居並ぶ兵卒に令する。小隊長の眼前に整列した小隊の面々は少ないしやたら痩せ細っている。
帝国軍編制における小隊の規定人員は40名だがならぶのは15名。
軍隊に限らず、よく欠員が目立つことを
野戦病院に搬送となった者はしっかり辿り着いたかわからない。搬送とは書いてあれどトラックが使えないから移動は負傷者に徒歩を強いる。歩き切るだけの体力があるかも怪しいし途上で空襲に巻き込まれる可能性も微弱ながら捨て切れない。
衣類の破れた箇所はそのまま。シャワーなんかの衛生関連の後方支援も無いから身は不潔だ。髭はそもそも生えなくなった者が多いし服も洗ったり変えたりできない。
軍隊のおいては基本中の基本の姿勢である『気をつけ』の姿勢すら保つのに苦労する兵の前で小隊長は口を開く。
「諸君、死に場所を得たぞ」
その口ぶりはどこか嬉しそうだ。小隊長はまず帝国軍がスリン島からの撤退を決断したこと説明した。
「それに伴い、現在我が軍は撤退を支援する人員を募集中である。戦友の撤退が完了まで陣地を固守する。生きて帰ることはできないものと覚悟してもらいたい」
小隊長は一拍置いて前に立つ部下一人一人の顔を見る。部下の目は輝いていた。
「任務の危険性を考え志願制とする。志願する者、一歩前へ!」
戦友を助けるために死ぬ。それはとても甘美な響きを持っていて小隊の兵士が酔いしれるには十分だった。
現状、兵士は飢餓と病魔で戦うことすらできずに弱り死んでいく。もはや戦争どうこうの次元ではない。もう決して祖国の土を踏むことはできないという悲観も決して虚構の上に成り立つものではなかった。
そんな中で戦友のために死ぬという最高にかっこいい死に場所を得た。空腹や病魔に冒されながら死ぬより、どうせ死ぬなら名誉ある戦死が良い。
そしてその栄誉に俗する機会に恵まれた。ならば、ならば。
15人全員が左足から前に踏み出し、ざっ、と全員のブーツが一糸乱れぬ音で土を踏み締める。
軍曹が小隊長に敬礼して報告する。
「総員16名、志願します」
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