第3話 陣地変換_2

 帝国軍の車列は彼らの新たな陣地へ向け移動していた。頭上には木々が重なっており、そのため敵機による攻撃には晒されないだろうと車列は緊張がとけていた。


 無論そんなことはなかった。確かに敵機に攻撃される状況ではなかった。しかし攻撃してくるのは何も敵機だけではなかった。


 特別工兵連隊。国防軍最精鋭の特殊部隊。


 内戦の末誕生した連合皇国は内戦時の経験から敵戦線後方において司令官の暗殺、補給路の攻撃を重視しており、そのために結成されたのが特別工兵連隊だった。なお工兵連隊とあるが、あくまで欺瞞のためで、兵員は歩兵、戦車兵、砲兵工兵、パイロット、海兵など全ての軍科から出向してきており、規模も六個師団ほどになる。


 そもそもシュタイナ少佐ら40名が派遣されるより以前から国防軍は攻勢に向け、捜索、偵察と補給段列攻撃に向け同部隊を投入していた。


 車列はもちろんこの部隊による襲撃について警告を受けていた。


 ところが世の中にはわかっていても防げない事、というのはままある。特別工兵連隊による奇襲も同じだった。頭上が樹木の枝によって覆われるほどの道。当然路脇には樹木が密生していたし、茂みも濃かった。当然それらは特別工兵連隊にとって絶好の隠れ場所となる。


 まず先頭の戦車が地面に埋められた爆薬によって爆破された。それを合図に特別工兵連隊の各員は対戦車擲弾(要するにロケットランチャー)ファウストをM/4戦車の側面にぶち込み、あるいは火炎瓶を戦車や装甲車のエンジンに向け投げつけた。


 国防軍は唯一火炎瓶を正式採用している国である。火炎瓶は投げつけ、瓶が割れると中の薬品が空気に反応、発火する優れものである。


 エンジン部に投げつけられた火炎瓶は、 燃えた内容物がエンジンに入り込むことでエンジンを破壊へと追いやる。


 さらに手榴弾をトラックの下に投げ込み、機関銃や突撃銃など、持てる限りの火力を叩き込む。


 最初に吹き飛ばされた戦車の砲塔のハッチから燃える手が出てきていた。瀕死の重症を負い、さらに燃えていたが、しかし生を諦めない乗員の手だった。中空に向けて伸ばされた手を取る者はもちろん誰もいない。何か、戦争というおぞましい惨劇を象徴する様な光景だった。


 奇襲を受けた車列は大混乱に陥った。


 そして特別工兵連隊の面々は帝国軍が受けた衝撃から立ち直らない内にさっさと離脱した。いくら最精鋭とは言えこの数ではまともに太刀打ちできない。


 車列が秩序を取り戻し始めた頃にはとっくに遠くへいた。


 散発的とは言えこうした奇襲は帝国軍将兵に多大な心理的負荷を与えていた。森の中を自由に跳梁跋扈するとあってはいつ襲われるかわかったもんじゃない。襲撃目標は往々にして車列だったが、だからと言ってそれを知るはずもないのだから陣地が攻撃を受けない保障など無いのと同じだった。以降、夜間の歩哨がしばしば気配を感じたということで発砲するようになったことはこの負荷の掛かり様をよく表していた。

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