第4話 佐藤 芽衣

 私は、佐藤 芽衣。結婚する相手は一流会社の社員がいいって思い、丸菱商事に入った。そう、結婚目当ての入社とか言われると思うけど、図星。それで、丸菱商事で三島さんのアシスタントをしている。なんでもバリバリこなす三島さんには憧れている。すごいわ。


 入社する前は、ごく平凡な大学生だった。テニスサークルの先輩と付き合って、先輩の部屋にも時々行ったり、一緒に旅行したりして、楽しい日々を過ごした。でも、なんとなくマンネリ化してきたときに、私に好意を持っている人と仲良くして、確実に付き合えると思える段階になった時に、付き合っている彼には別れ話しを持ち出した。だって、彼がいない期間ができちゃうのって嫌じゃない。


 でも、男性って、どうして女性のこと好きになるのかしら。関係ないか。私は、甘えたいの。話しも聞いてもらいたい。褒めてもらいたい。そんな男性と一緒にいられるのが楽しい。ごく普通のことでしょ。


 三島さんは、アシスタントの私にも、いつも優しい言葉をかけてくれて、とっても素敵。結婚したいNo.1って、あんな人じゃないかな。聞くところによると、御曹司だというし、顔もイケメン。高校の時は、バスケで国体に出たというからすごいじゃない。欠点が見当たらない。


 当社で周りを見てると、アシスタントに、早くお茶もってこいとか、なんで、いつもこんなことができないんだとか、怒鳴っている人をよく見かける。アシスタントとの関係がそもそも、そういうものなのか、そのアシスタントがドジなのか、このような発言はパワハラかはわからないけど、私、そんなこと言われたら気持ちが持たないけど、三島さんは、もちろん、そんなことは言わない。


 さらに、三島さんの仕事のやり方をアシスタントとして学べば、次のステップに行けるじゃない。いえ、それは違う。三島さんだから、あんなやり方で成功するのよ。違う人が同じことをしても失敗するだけ。だから、三島さんの奥様になるのがベストな生き方だわ。そのためにも、三島さんに好かれる人にならないと。


 いつも、三島さんに何を言えば、何をすれば好きになってもらえるのか考えちゃって、よくぼーっとしていると三島さんから笑われることがある。あなたのこと考えているのよと言ってみたいけど、ちょっと、まだ早いわね。


 ところで、先日、六本木を歩いていたら、三島さんが女性と腕組んで歩いていたから、彼女がいるんだと思う。でも、どうして三島さんが、あんな女性と付き合ってるのかわからない。あれなら、私の方が2倍じゃなくて2桁ぐらいいい女性だと思う。でも、よく映画とかで見る、親が決めたいいなづけとか、何か訳があるのだろうから、それ以上、詮索をするのはやめた。


 それから、悲しい気持ちになって、三島さんにも笑顔を見せられなくなった。私は、三島さんの奥様になれないんだって。どうして、世の中は不公平なんだろう。私だって、努力してきたし、悪いことはしたことがない。そろそろ、神様も、私の願いを叶えてくれてもいいのにって。


 ある会社の飲み会で、大勢いたけど、アシスタントということで三島さんの横に座り、お酒を注いだりしていた。三島さんは、最近、暗いようだけど、何か悩みがあるの、あるなら相談に乗るよと言って、飲み会の後、近くのショットバーに一緒に行こうと誘ってくれた。


 ついて行って、飲んでたら、悩みのせいかもしれないけど、だいぶ酔っ払ってしまった。そして、朝起きたら、三島さんの横で寝ていた。何があったか全く覚えていないけど、パンツも下着も何も着ていないし、パンツ見たら汚れてたから、昨晩は三島さんとエッチしたと思う。


 失敗したと思ったけど、今更、どうしょうもないので、朝、まだ三島さんが寝ているうちにホテルを出た。その日、会社で会うと、ごめんとか言ってきたけど、ごめんって何? そんなこと言わずに、彼女と別れて私と付き合ってよと思った。


 でも、一応、上司だから、私こそ恥ずかしいことしちゃったと言ってから、彼女はいるんですかと小声で聞いてみた。そしたら、いないよというので、勇気を出して、じゃあ、私と付き合ってくださいと言った。三島さんは、ゆっくり頷き、それから、よく一緒に出かけるようになり、将生、芽衣と呼び合うようにもなった。


 そうね。この前見た女性は将生の彼女でいいはずはない。別れようとしているのよ。やっと、私にも幸せになる時がきた。これまで、頑張って生きてきた甲斐があったわ。これで結婚して、会社をやめて、子供が生まれ、笑顔で溢れる家族と一緒に過ごす。夢が叶うわ。


 毎回、贅沢なレストランとか連れていってくれて、本当に楽しい日々が続いた。夏には、アシスタントは、上司が休みで仕事がない時じゃないと休めないからという理由で一緒に休んで、イタリア旅行に行った。この日がずっと続いてほしい。


 まだ、あの女性と付き合っているなら、別れさせてやる。私が一番なんだから。そうよ。だから、我慢できなくて将生は私を抱いたの。昨晩も、私のこと抱いて、芽衣が大好きと叫んでいたんだから。


 そんな日々を過ごしていると、最近、あれが来ていないことが心配になっていた。誰にも相談できなかったが、数ヶ月続いたから病院に行ったら妊娠しているって。これはもう隠しておけない。三島さんに会って、結婚しようと話すしかない。そして、あの女は彼から引き剥がさないと。


 そうだ、直接、話すのも怖いから、まず、伝えたいことを手紙に書いて、渡しておこう。アシスタントなんだから、職場にある将生の鞄に入れて、誰かに見られても、そんなにおかしくない。そして、数日あったら読むだろうから、その後に直接会って、結婚してと伝える。これがいい。

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