第3話 桜井 一香

 私は、桜井 一香。歯科衛生士をしている。大学時代には、この美貌のおかげで、何人もの男から声をかけられ、何人もの男と付き合った。もちろん、いずれの男とも大人の関係を持った。いつもお金持ちのボンボンを選んだから、かなり贅沢な大学生活を送らせてもらったわ。


 男なんてちょろい。適当に、微笑んでいれば、かわいいねって、なんでもしてくれる。特に、清楚系に弱い男が多いから、何も知らないと言って、家で静かにしている毎日とか言っていれば、こんな美女が見出されずにいる、他の男に汚されていない女だと、大抵は好きになってくれる。


 大学を出て、歯科衛生士をしているときに、イケメンの先生がいたから、誘ったら、すぐに着いてきたわ。いつも、髪を直すとか、ナルシストぽかったけど、贅沢はさせてくれた。でも、半年ぐらい付き合った時に、先生の方から、実は既婚者で、奥さんにバレそうだか別れてほしいと言ってきたの。


 私は、既婚者だと思ってなかったし、本当に結婚できると思っていたのにと、さめざめと泣いた。そして、人生を台無しにされたと大騒ぎをしたら、慰謝料として300万円を出してきたのはびっくりだったわ。私の気持ちをお金で買うつもりなのと言いつつ、これ以上、騒いでも先生にご迷惑がかかるのは嫌なので、残念だけどお金で解決しますと引いた。本当に儲かった。笑っちゃう。


 その歯医者にはいられないので、今いる歯医者に移ることにした。そのうち、イケメンの三島という患者が来るようになって、保険が使えない治療とかいつもして、毎回、大金を支払っていくので、この人はお金持ちだと思った。


 予約表を見て、今日、三島さんが来ることは知っていたので、私は早退する手続きをとって、彼が帰る時間に、トイレから飛び出して、彼がいるエレベーターに飛び乗った。


 三島さんは、私を見て笑顔で、ここの歯医者の方ですよねと声をかけてきたので、ええと言いながら恥ずかしそうな顔をして下を向いた。そう、男性は清楚系が好きだもの。そして、勇気を絞り出すように下から見上げ、三島さんでしたっけと声をかけた。


 覚えていらしたんですねと言って、歯医者から駅まで一緒に歩いたが、彼は、ずっと話し続けた。そして、駅に着く少し前、せっかくだから少し飲みませんかと聞いてきた。


 私は、男性と2人で飲みに行ったことないしと言って、どうしようかなと迷ったふりをした後、少しだけだったらと答えた。彼は大喜びで、近くのイタリアンのお店に私を連れて行ってくれた。そこでは、私では頼まないような高いワインを頼んだから、やっぱり金持ちだったわという感じ。


 彼がずっと話していたので、何も知らないふりして、ずっと笑顔で聞いていた。幸い、私は、お酒はとても強いので、全く酔っていなかったけど、少し酔っ払ったふりをして、興味のある話しではなかったけど、すごい、すごいと相槌をうっていた。


 そのうち、映画とか一緒に行くことが増えたわ。清楚系を演じて、いつも何もせずに、夕食を食べて別れていたけど、ある日、手を握ってきたので、恥ずかしそうに下をむき、そして、笑顔で彼の顔を見上げた。そして、その頃から、彼のことを将生さんと呼ぶようになったわ。


 付き合って、1ヶ月ぐらい経った頃、家まで送ってもらった時に大雨が降ってきたので、家の中に誘ってみた。本当に、男って手の上ですぐに転がせる。私と寝たいって、顔に書いてあるもの。


 昨晩飲んで、冷蔵庫に残しておいたワインを将生さんに出して一緒に飲むことにした。ちょうどワインがあって、日頃からワイン1本飲むのに数日かかるとか、贅沢をしていないとかの雰囲気を出せて良かったわ。そして酔ったふりをしてベットに転んだら、将生さん、私にキスをし、抱いてきた。本当に計画どおり。


 そして経験がないふりをしたら、将生さんは信じたみたい。痛かったけど、今日は本当に幸せと言って、将生さんの胸に顔を埋めたら、今日は楽しかったと、再度、抱きしめてくれた。これで、将生さんは私のもの。


 そうして、しょっちゅう、私の部屋で会うようになった。ただ、ある日、六本木でショッピングをしていると、将生さんが、ある女とレストランに入っていくのが見えた。その女は、将生さんと腕組をして、ベタベタとしている。


 外から見てると、彼はそれほど楽しそうじゃないようだったけど、その女は、可愛くもないのに、彼にずっと話しかけていて、どう見ても2人は付き合っているようにしか見えない。


 私は、レストランを2人が出た後、女の後ろをついて行った。そして、恵比寿駅を降りて、その女が住んでいるアパートに入っていくところを見届けた。その日は、その近辺のホテルに泊まり、次の朝、その女のアパートを見張っていたら、朝7時に出てきて鍵を閉めた。1人暮らしのようね。


 その女を数日、尾行してみたけど、本当につまらない生活。家から会社に往復するだけの生活。そして、ダサい服、特徴のない顔、どうして将生さんは、こんなくだらない女と一緒にいるのかしら。お金持ちという感じでもないし。


 将生さんは私のもの。将生さんには似合わないし、近づかせないようにしないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る