第41話 少女消散

 バラバラになった俺たちは、暫く取り調べを受けた。目的やら何やら、根掘り葉掘り訊かれ、解放されたのは三日後だった。


 取り調べがようやく終わった日の午後、俺たちは呼び出しを受けた。


「あなた方は、あの兵器について、よくおわかりになっていないようだ……。あの兵器の本質はね、武力による鎮圧ではない」


 俺たちが揃うなり、仕立ての良いダブルのスーツを着た役人がそう切り出した。


「……?」


「あれはね、統括権を持った特別な機体なんですよ。あなた方が掘り出した砲塔があったでしょう? あれは一種の増幅器になっていましてね。特殊な電波によって、任意の機械類一切を強制的に操ったり停止に追い込んだりできる……それが、あの兵器の本質です」


「デイジーが……そんな」


「事実です。実際、大戦期には、他国侵略の兵器として立案されたようですしね。あの容姿も、振る舞いも、人の中に違和感なく溶け込むための、言わば、隠れ蓑なのですよ」


 デイジーの笑顔が思い出される。あれが演技?


 ぐちゃぐちゃとしたものに、心がかき乱される感覚。これまでのあいつは、すべて作り物だったのか?


「あの機体を回収したのも、月面を陣取っている不適な機械どもを機能停止に追いやるためなのですよ。しかし……一つ困りごとがありました。あれはそれまでの記録を消失していたようでしてね。お陰ですっかり、兵器の本分を忘れてしまったようだ……」


「何が言いたい……?」


 ナオミが静かに問い質す。


「つまりは、ですね。あれは私どもの方で“修正”を施したのですよ。最早、作り物の朗らかさや、笑顔など必要ありませんからね」


「――!」


 その時、会話を遮るように、がらがら、とキャスターの音がした。見るとベッドが運ばれてくるところだった。


「おっと、噂をすれば……。良ければ会って行かれては? これが直接会える最後になるかもしれませんし」


「デイジー!!」


 ベッドに縋り付く。そこには、ベージュの手術衣を着せられたデイジーが横たわっていた。


「あなた方には感謝しているんですよ。行方知れずだった機体を見つけてくれて。砲塔が壊されたのは計算違いでしたが……」


「おい! しっかりしろ!」


 デイジーの目は虚ろで、ここではないどこかを眺めているようだった。ふわふわと揺れていた栗色の髪は全て剃られ、それがまた痛々しい。


「おい! わかるか? 俺だ、鳴海だ!」


 デイジーが、目だけをぎょろり、と動かして俺を見た。インクの染みのように、戸惑いと慄きが、俺の胸に広がっていく。


「あ……」


 微かにデイジーが発声した。しかし、よく聞き取れない。


「何だって……? おい、聞こえないぞ、デイジー!」


 耳を近づけると、躊躇いがちな声が届いた。


「――あなた、ダレ?」

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