第40話 少女奪還
「これが、安達から送られてきた見取り図か」
三人で顔を突き合わせ、俺たちはデイジーが捕らえられた施設の確認をしていた。
「これは骨が折れそうでせうね」
「ああ……」
「だが、全くの不可能でもあるまい。鳴海、ここはこう……先に警備を切ってからだな……」
ナオミがルートと役割分担を決めていく。
「よし、まあこんなものだろう」
「じゃあ決行は一週間後に。その日は物資の搬入がありますから、それに乗じて潜入しませう」
「わかった」
決めるべき事が固まったところでその日はお開きとなり、決行までの間はその準備に充てた。
緊急時の合図など細かい点を詰め、不安要素を一つでも減らさんとするうち、一週間は瞬く間に過ぎていった。
「お疲れ様です」
施設内の門前で、運転手に扮した俺が声をかけると、不用心な門番はあっさりと招き入れてくれた。荷台には、ナオミと江口が息を殺して潜んでいる。
地下の駐車場に車を止め、警備室へ向かう。
「物資の搬入に伺いました」
「ご苦労様です。こちらにサインを……」
言いかけたところで、警備員に躍りかかる。組み伏せて、スプレーで目潰しをすると、警備員は目元を押さえて転がった。声が聞こえないようタオルを噛ませ、両手両足を縛り上げる。
「許してくれ。非常事態なんだ」
清掃用具と一緒にロッカーに押し込み、ロッカーが開かないよう施錠してから、二人に無線で合図を送る。
「では行こうか。鳴海、江口、私は先に警報を切ってくる」
どこで調達したのか、江口の用意した職員用の制服に身を包んだナオミが先に潜入する。十分ほど待機していると、ナオミから連絡があった。
「完了した。ダミーの映像も走らせてあるから、向こう一時間は大丈夫だろう」
「了解。江口、行くぞ」
「江口は頭脳労働側ですが……仕方がないですねえ」
同じく制服を着込んだ俺たちも続く。
「お疲れ様です」
途中何人かの職員とすれ違ったが、特に怪しまれてはいないようだ。
「この辺りにエレベーターが……あった」
ランデブーポイントのエレベーターには、既にナオミの姿があった。合流し、目的地へ急ぐ。
安達によれば、デイジーは三階に捕らえられているとのことだった。上昇の不快感を覚えつつ、三階に到着する。
「急ごう」
“関係者以外立入禁止”と書かれた張り紙のある部屋の前で、ダミーキーを取り出す。嫌にあっさりと扉が開いた。
「ここにデイジー女史が……?」
電灯を点け、手分けして広い室内を探す。様々な者が置かれているらしく、デイジーは中々見つからない。
「クソッ……どこにいるんだよデイジー……」
焦りが出始めた頃、気配を感じた。
振り返ろうとするが、遅かった。
「何か、お探しで?」
後頭部に、堅い感触が押しつけられた。それが拳銃らしいと悟り、手を上げる。
「随分、手荒な事をなさる……」
「いつぞやはそっちに手荒な真似をされたからな。それより、人を探してるんだ。お前、知らないか? 機械のくせにポンコツで脳天気なやつなんだが」
「知ってはいますが、教えられませんね」
「手厳しいな」
「困るんですよ、勝手なことをされては。この非常時に余計な手間をかけさせないでください」
「……俺たちはどうなるんだ?」
「あなた方の処遇は追って決めましょう。それまでは各々大人しくしていてもらいます」
そうして、俺たちは引き離された。ただただ無力感が募り、俺はぼんやりとしたまま、成されるがままになっていた。
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