第39話 少女月上

 気が付くと、私はうち捨てられていたのだった。


 起き上がり、辺りを見回すと、私とよく似た作りの機械が辺りに転がっている。

 捨てられたのだと理解するまで、そう長い時間は要しなかった。


 しかし、何の感慨もない。事実を事実のまま受け止めるだけ。元々、そんな風にできているのだ。


 私は立ち上がる。手探りで壁伝いに辺りを調べると、廃棄用と思しき穴を見つける。迷わず飛び込むと、落ちた先は殊の外柔らかな地面だった。


 正確には、それは地面などではなく、生ゴミが堆積したものだった。むっと突くような臭気が、センサーを通じて伝達される。ぐちゃぐちゃとした足場を這い、外に出る。


 月が明々とした晩だった。私の影が、すうっと伸び、どうしようもなく静かだった。

 月面には、人間がこしらえた施設があると研究所内で聞いたことを思い出す。確かこの近くに、発射基地があったはずだ。


 途中、ゴミ捨て場からぼろきれを漁り、身に纏う。風が吹いて、ぼろきれがはためいた。私は一人歩く。ひたひたと、冷たい足音がした。


 研究所併設の発射場では、まさに貨物の積み込みが行われてた。私は貨物の一つに成り代わり、搭乗する。


 数時間後、打ち上げの振動を合図に、私はコンテナから這い出た。無人機らしく、中には人間の気配はない。貨物の中から、衣服を探り当て、ぼろきれと交換する。それから、靴下をそっと、スカートのポケットに押し込み、バールを後ろ手に抱える。


 月面の基地は、戦争前に人間が共同で建設したものらしく、どの国の管轄でもないとのことだった。無人機から降り立った私を不思議そうに見る警備員を手早くバールで撲殺し、警備室へ向かう。


 警備をザルにし、警備員から奪った拳銃で、基地の人間を一人ずつ始末した。人数は少なかったが、それでも途中で残弾が尽きてしまった。


 一度外に出て、靴下に砂を詰める。


 道に迷ったふりをすると、人間は親切に道を案内しようとしてくれた。その背後から、靴下で殴打し、昏倒したところを更に殴打すると、とうとう生きている人間は一人もいなくなってしまった。基地内の重力を切ってやると、動かなくなった人間たちはふわふわ浮かんだ。ハッチを開けて、そこから全員分を星々の海へと流していく。


 私を乗せてきたロケットには、かなりの量の資材が積載されていた。大方、増設工事でも控えていたのだろう。私はそれで、自分の模造品を拵えることにした。人間に成り代わるために……。

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