第18話 少女昏倒

 砂が晴れて、ようやく俺も体を起こすことができた。幸い、防護服のおかげで砂を浴びることはなく、外傷も問題なさそうだ。僅かに体の節々は痛むが、許容範囲だろう。


「そうだ……デイジー!」


 俺は、デイジーがいた辺りに慌てて駆け戻った。砂地の上では、デイジーが倒れ伏している。髪は乱れ、砂にまみれていた。


「おいっ! しっかりしろ」


 軽くゆすったり、声を掛けたりしているうち、デイジーは目を開けた。


「大丈夫か! おいっ! 俺がわかるか?」


「ナル……ミン……」


「そうだ俺だ!」


「うっ……」


「どうした、どこか痛むのか!?」


「違う……うあっ!」


 その場でデイジーが苦しそうに身をよじる。腹痛をこらえるように、体を丸め込む仕草が痛々しい。


「ああああっ!」


 そう叫んで、デイジーは一瞬動かなくなった。その体……ディスクを挿入したうなじから、二枚のディスクが排出されている。


「お使いのディスクに不良セクタが検出されました。安全のため、当機のシステムを停止いたします」


 空を映した虚ろな目。仰向けの姿勢を取り、口だけを動かしてデイジーはそう言った。そしてそれきり、本当に動かなくなった。


「デイジー! おい! デイジー!!」


 いつの間にか、周囲の衝撃は止んでいた。


 静寂の中、俺は黙りこくるデイジーを揺すり続ける。デイジーの髪が一房砂地に落ちて、乾いた音が鳴った。それだけは、不思議と防護服越しの俺の耳に届いた。


 それきり、不気味なくらいの静寂しじまに、俺たちは抱かれていた。空は今日も、鈍色をしていた。それを映す、デイジーの開かれたままの目も、鈍色をしていた……。

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