第12話 少女雨後

「……で、復興途中に、今度は惑星外から攻撃を受けた。まあ、俺らの同士討ちが落ち着くタイミングを見計らっていたんだろうな。お陰でこっちは大打撃。天候管制局が抑えられたせいで年がら年中雨や曇りだし、撒かれた薬品のせいでほとんどの土地は不毛。だから、自給自足可能なあのシェルターで今は暮らしてるってわけだ。まあ、戦争を想定していたものが役に立つっていうのはちょっと複雑だが」


「そうだったんだ……私が寝てる間にそんなことが……」


 すっかり雨が収まったころ、俺たちは帰路についていた。


 あれから、デイジーが落ち着くのを待って、小雨の中探索を再開した。しかし、初めに見つけたディスクのほかは、特にめぼしいものも見つからない。一応の成果はあったので、今日のところは引き上げることにしたのだ。


 歩きながら俺は、話の続きをしていた。


 デイジーは、俺の話にしきりに驚いている。こいつが何年寝ていたか知らないが、久々に出たら表は壊滅状態なのだから、驚くのも無理はない。


「目覚めると、そこは荒廃した大地だった……っていうんだから、お前も大変だよな」


「うん……。あ、でも、みんなといるのは楽しいよ☆ みんな仲良しだし☆」


「まあ、こんな状況だからな。ギスギスしてたんじゃ共倒れだ」


 実際、戦争をしていた頃よりも人類全体の結束力は強まった気がする。よくわからない存在を相手に、明日は我が身……ともなれば、つまらない拘りなど何の役にも立たない。


「まあ……お前が来て、みんな助かってると思うぜ」


「そうなの?」


「ああ。お前みたいな能天気なやつは貴重だからな」


「う~☆ それ、褒めてるのぉ?」


「褒めてる褒めてる」


 俺も助かってる、とは言えなかった。なんとなく、照れくさくて。


「よし、着いたな。じゃあ、それ脱げ」


「あ~ん☆ ナルミンに身ぐるみ剝がされちゃう☆」


「じゃあ一生そのままでいろ」


「も~☆ ジョークだってばぁ☆」


 二人そろって暑苦しい防護服を脱いだ。使用済みのそれは、汚染物処理用の機械に放り込む。少ない着数をローテーションで使用しているので、帰還後は速やかに処理を行う決まりだ。


「部屋に戻ったらシャワーも浴びろよ。用心に越したことはないから」


「うん☆ ナルミンとしゃわ~☆」


「誰がお前と浴びるか。先に戻ってろ。これで部屋に入れるから」


 俺は部屋の鍵をデイジーに渡した。元は銀色だったであろうその鍵は、今ではくすんだ色をしている。


「ん~?ナルミン☆ どこかいくのぉ?」


「いや、ちょっと寄るところがあるだけだ。ほら、回収物も提出しなきゃならんしな。すぐ戻るから」


 ディスクを格納したケースを見せてやる。万が一外部に汚染物が漏れないようにという配慮から、回収作業員が携帯している特殊なものだ。


「そぉ? それじゃ、部屋で待ってるね~☆」


「ああ……」


 デイジーの後姿を見送る。すっかり平常運転のデイジーを見て、俺は内心胸をなでおろした。

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