第8話 少女和解
「おっ来たか……っておい。なんだその態度は」
出迎えたのはナオミだった。
「よお」
デイジーは俺の後ろにへばりついて、様子を
「あっ鳴海、先輩。こんにちは」
「河合、お疲れ。精が出るな」
「いえ、私なんてまだまだ……。あっ、けっ今朝は、その、すみません、でした。私、勘違いで、失礼な、こと、言っちゃいましたよね」
「いいんだ、そもそもこいつが悪いんだから……。おい、張本人。いつまでアブラゼミごっこしてる気だ」
「うるうる☆ ここがドナドナの予選会場……☆」
「おい鳴海、なんだドナドナって」
「さあ……こいつが勝手に言ってるだけだろ」
「うそうそうそぉ! うそだよぉ! ナオミンが私をスパナで熱烈歓迎☆ ってナルミンがいってたのぉ☆」
「ほお。そこの『ナルミン☆』くんがそんなことを言ってたのか」
「そこまでは言ってない」
はあ……とナオミがため息をつく。少ししゃがんで、デイジーに目線を合わせた。
「悪かったよ、あの時は私もどうかしてた。何せもっと別な反応が出てくるものと思っていたから、期待と現実の落差に戸惑ってね……。今はもう大丈夫だ」
「……スパナさん、ナシ? ナオミン☆」
「ああ、スパナさんはお休みだ。私のことも『ナオミン☆』で構わない」
「そっかぁ……☆」
ようやく安心したらしく、デイジーは俺の後ろから出てきた。そんなデイジーの頭を、ナオミは優しく撫でてやる。
「ナオミ先輩、なんだか、お姉さん、みたい、です」
「そうか? 私の家は一人っ子なんだが。これも潜在的な母性の成せる業かな」
河合の言葉にナオミが優しく微笑む。こうしていると、普段のきびきびとした彼女とは別人のようだ。
「ところで鳴海、この子、何か思い出したのか」
「いや、まだだ。適当に呼び名は付けたが……」
「ほお」
「えっとぉ☆ デイジーはデイジーっていうの☆ ナルミンが付けてくれたの☆」
俺が言うより先に、デイジーが自己紹介する。
「デイジーか。ふうん、鳴海にしては気が利いている。わかった、君のことは今後デイジーと呼ぼう」
「よろしく、ね、デイジー、ちゃん」
「うん☆」
起動直後はどうなることかと思ったが、女同士打ち解けられたようで安心した。デイジーも、男の俺には相談しにくいことがあるだろう。同性の知り合いはいるに越したことはない。
「ところで、二人は見学に来たんだろ。まあ、ゆっくり見ていくといい」
「あの、お茶、でも、出しましょうか?」
「いや、大丈夫だ。ありがとう河合。じゃあデイジー、さっきと同じく、手は触れずに見学してこい」
「は~い☆」
トトトトっとデイジーが駆けていく。その姿が遠ざかるのを確認して、俺はナオミに声をかけた。
「……それで、どうなんだ。もう一つの掘り出し物の首尾は」
「まあ、形だけはどうにか直したよ。あり合わせの材料で修復したから、実用性はこれから試さなければならないが」
「デイジーにはいつ知らせる」
「近いうちに。ああいう相手は、モノと割り切るのが肝要だ。いくら笑って、怒って、はしゃいでいても、“彼女”……いや今はデイジーか。デイジーはアレの一部なんだから。鳴海、お前も情が移らないようにしろ」
「……ああ」
「まあ、今は好きにさせておいてやれ。今後のことを考えたら、デイジーと仲良くしておくにこしたことはない」
「わかった」
「ナルミ~ン☆ あれなに~?」
会話に割り込むようにデイジーが戻ってきた。
「俺に聞くな。門外漢だ。その辺はナオミと河合に教えてもらえ」
「よしよし。私が直々に案内してやろう。行こうかデイジー」
「わ~い☆ ナオミン☆ ナオミン☆ シオリン☆ シオリン☆」
「じゃ、じゃあ、行こう、か。デイジーちゃん」
「うん☆ えへへ☆」
遠ざかる三人を見るともなく見る。二人……特にナオミの表情は優しい。
「……お前も大概だろ」
呟いて俺は天井を仰いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます