コークハイ

第1話

彼が唯一私に作ってくれるのは、ほとんどお酒の味なんてしない、薄い薄い、コークハイだ。ウイスキーに氷を浮かせただけの彼のグラスを指差し「私も同じの飲む」と言ってみても、いつも「お子様はそういうので良いんだよ」と遇らわれてしまう。お酒を飲めるようになれば、少しは近づけると思っていた。でも、結局、ストローでコーラを吸いながら見つめていた頃から、私と彼との距離は変わらない。ただ、グラスの中の液体が、ほんの少し、苦くなっただけ。火照る私の横で、ずっと強いお酒を飲んでいるはずの彼が、一向に顔色を変えないのも、一緒。「ほら、赤くなってんじゃん」笑う彼は、やっぱりいつもと変わらない。いつか、とよく考える。いつか、この人の余裕たっぷりなこの顔を崩させたい。私をストレートで飲み干して、どうしようもないくらいに酔っ払って欲しい。そしたら今度は私が、余裕の顔で彼に微笑みかけてやるのだ。そんな妄想のあまりの芳しさと馬鹿馬鹿しさに思わず笑んでしまうと、彼が、「何笑ってんだよ」と相変わらず体温の低い顔をこちらに向ける。あー、もう本当、むかつく。その視線には応えず、彼の手からグラスを奪い取る。「おい、やめろよ」と言う声を無視して、私は彼のウイスキー割りを無理やり流し込む。どくん、という心臓の音と共に、体温が、また0.1度、上がった。

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コークハイ @363037

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