幕間2:新たな波動の予感

「巫部、ちょっといいか」

「?いいよ」


 1時間目が終わった後。


 私と川口くんは弘毅に呼び出された。


「2人に、やってもらいたいことがある」

「?」

「あ~…大体わかった」

「「いや早っ」」


 川口くんの言葉に私と弘毅は声をそろえる。


「あれ見てたら嫌でもわかるわ。あれだろ、生天目だろ?」

「おう」

「あ~…」


 なるほど。生天目さんの件か。


 あそこまであからさまだと普通に分かるもんね。多分ほかの人は気付いてないけど。


 川口くんも呼び捨てになってるし。


「あれ、明らかにお前ら…特に倉石さんへの嫌がらせだろ」

「十中八九そうだろうな」

「でしょうね」


 私たちは話しかけられたのに、弘毅と沙織だけ話しかけられてない。


 明らかにおかしいもん。


「やっぱり、2人とも気づいたか」

「当ったり前よ。俺を誰だと思ってんだよ」

「金欠野郎だと思ってる」

「おい」

「巫部もよく気付いたな」

「まあ…」


 想像はつく。


 2人を孤立させた上で弘毅を裏切らせようとする、生天目さんの魂胆が。


「で、倉石さんを助けたいって相談なんだろ?」

「…まあ、そうだ」

「で、私たちはどうすればいいの?」

「ああ、それは──」



*********


「──という感じだ」

「なるほど。じゃあ行くか」

「オッケー。レッツゴー!」

「いや軽っ。いいのか?こんなことお願いしても」

「お前が頼んだんだろうが」

「それよりも私としては、なんでそんなに頭が回るのかが気になる」

「確かに」

「なんでと言われてもな…」


 うんうんと悩み出す弘毅を見て、私たちは顔を見合わせて苦笑した。


「──そうだ!」

「うおっ、びっくりした…どした?」

「沙織を助けるときの、決め台詞決めたらどう?」

「おお!いいなそれ!」

「どんなのにする!?」

「それじゃあ──」


**********


 そして、時は経ち。


**********


 称賛の嵐の渦中にいて、沙織に手を差し出す弘毅を見ながら、私はポツリと呟いた。


「ほんと、みんな調子いいよね」

「全くだ」


 いつの間にか近くに来ていた川口くんがそう答えた。


「誰が悪いのか分かんねえよ」

「本当にね」

「まあ、でも…一応は丸く収まったしいっか」

「だね。というか、そう考えると私たちって結構いい仕事したんじゃない?」

「まあな。陰のヒーローってやつよ」

「そんな柄でもないでしょうが、晃牙」

「!…よく人を見てんな。自己紹介してねぇぞ」

「お褒めいただき至極光栄」

「いい性格してんな、お前。ま、そんなところもあいつがお前を選んだ理由の1つなんだろうが」

「へえ〜」

「あからさまに興味なさそうだな…いや、大体わかるからいいと?」

「お、正解。晃牙も私と同じじゃん」

「うっせ。で、そろそろ教えてもらいたいんだが」

「何を?」

「とぼけんな。お前と、あの2人の関係だよ」

「…今日はいい天気ですね」

「お前の価値観では曇りがいい天気なのな」

「…言わなきゃダメ?」

「別にいいさ。大体予想つく」

「へぇ…覚えてるんだ?」




  「………忘れるわけ、ないだろ?」




 そう言うと、晃牙は足早に去っていった。


 未だに称賛の嵐が止まぬ中、陰のヒーローは1人呟く。



「そりゃそうよね、だって──」



──忘れるわけ、ないだろ?──




「晃牙、私と同じだもんね」



 その呟きは、嵐の中に儚く消えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る