第11話:昨日の敵は今日の友

 魔女狩り、というものをご存知だろうか。


 キリスト教で、魔女とされた人に対する迫害行為のことだ。


 そして今、まさに、


「この魔女が!」

「恥を知れ!」


 その魔女狩りが行われていた。


 この学校では、学級裁判というものがある。


 つまり、学校内での出来事に対して、クラス単位で裁判を起こすことができるのである。


 その裁判で決定した処遇は絶対遵守。守らなければ強制的に退学だ。


 では、大人数が1人に対して学級裁判を起こしたらどうなるか。


 その結果が、これだ。


「ほんと生天目さんサイテー」

「倉石さんに謝ったら?」

「そうだそうだ!」


 非難の声はすべて一直線に生天目へ向かう。


 当の生天目は、椅子に座って下を向いていた。


 そして沙織は…生天目さんを冷たい目で睨んでいた。


 やっぱり怒ってるんだろうな。起こることなんかめったにない沙織でも、怒ることはあるもんな。


 もっと早く…助けてやればよかったかな。


 いや、でも、もしすぐに解決しようとしていたら、生天目の陰湿な嫌がらせは続くだろうし、あの方法がベストだと思うんだよな。


 それに、俺は、「やられたらやり返す」を座右の銘にしてるんでね。


 やられたなら、同じ方法でやり返さないと。


「あ、そうだ!倉石さんに決めてもらおうよ!」

「それいいな!この女どうするかは倉石さんに決めてもらおう!」

「…え?」


 いきなり声をかけられて沙織は困惑している。…なんか見てると、沙織は振り回されてるだけじゃないか?


 どうするかと言われても分からない、と言わんばかりの表情で、沙織はこっちを見た。…おい、まさか──


「あ!日村に決めてもらうのはどうだ?」

「確かに、日村は今回大活躍だったもんな!」

「はあ…」


 めんどくせぇ。なんで俺に押し付けてんだよ。


 どうするかといわれてもねぇ…


 ちらっと生天目を見る。


 そこにあるのは、いつもの何を考えてるのかよくわからない、冷笑に満ちた表情。


 だけど、そこに確かに俺は見た。


 不安げな、高校生らしい顔を。


 それを見た瞬間、俺の心は決まった。…いや、違う。


 元から決まっていたものが、はっきりしたといったほうが正しいか。


「どうするかって、んなもん…」


 みんなが期待に満ちた表情で見てくる。


 うわあ、嫌だわー。これ絶対、バッシング受けるじゃん。ブーイング起こるじゃん。


 ま、しゃーないか。


 俺は深呼吸1つすると、こう言い放った。


「どうもしないが」

「「「…「「…は?」」…」」」


 その瞬間、多分初めてクラス中の声がハモった。しかも、沙織や生天目をも含めて。


 いや、沙織は分かるよ?生天目も分かる。でも、川口や巫部は何故驚く。


 お前ら、さっきのことで俺の性格、多少なりとも理解しただろ。


「はあ!?なんでだよ!お前、そんな奴につくのかよ!?」

「そうよ!やっぱりアンタ、その女の味方だったのね!?」

「いや違うし、やっぱりってなんだ」


 さっきのセリフ、つい最近聞いたな。


 予想通り、クラスはブーイングとバッシングで満ちていた。


「おい!なんとか言え──」

「なに!?じゃああんたもがっきゅ──」



「──うるせぇよ」


「ひっ…!」


 その瞬間、クラス中のやつが沈黙した。


 いや、メンタルミジンコかよ。俺がちょっと低い声出して、冷たい目しただけだろ。


 俺は、怒っていた。


 それも、約2年ぶりの怒り。


「てめぇら、いい加減にしろよ!」


 そのすべてを、言葉にして、


「自分の責任を追及せずに、他人の責任ばっか追及してんじゃねぇよ!」


 ──吐き出す!


「実際てめぇらも沙織を追い詰めた側だろうが!それを何だ、それが不利だと分かったらすぐに手のひら返しやがって!岡本なんか一番ありえねえだろ!沙織を殴ったくせに、一切謝らずに、生天目ばかり追い詰めて!自分が悪いとは思わねぇのかよ!自分の罪くらい、自分で理解しろよ!自分のツケくらい、自分で払えよ!」


 そこで俺は、一つ深呼吸。


 みんながほっと息を吐いた瞬間に、一番大きい声量で、叫んだ。


「──それができずに、正義語ってんじゃねぇよ!!!!」


 クラス中のやつが、驚きで固まっている。中には怯えて涙目のやつもいた。


 面白いくらい想定通りになったなー。まあ、キレてたのは事実だが。


 さて、言いたいことは言ったし、あとは、先生に任せよう。


「じゃ、この学級裁判の結果は、1か月間の停学処分、でいいな?」


 もちろんみんなからの反応はない。


 俺はそれを肯定とみて、教師に報告すると、その場を後にした。


 後ろを一切振り返らずに。


 …少し、すっきりした。

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