第8話:信頼と裏切りは紙一重

「岡本君、これ頼んでもいい?」

「え?あ、うん…分かった」

「ありがとう。頼りになるね」


 微笑みかけられて、思わず赤面する彼。


 転校初日で、生天目さんはこんなことを繰り返していた。


 それも、私とアイツ以外全員に。何が目的なんだろう。


 しかもアイツは、そんな生天目さんをとても真剣な目で見つめていた。


 一目惚れしちゃったのかな。やっぱり、ああいう子がタイプか…


 い、いや、別に気にはしてないし!?


 と、アイツの顔を改めて見てみると、やはりそこには今まで見たことのないほどの真剣な顔が。


 思わずムッとして、視界を遮るように立った時…気づいた。


 弘毅の目が、背筋が凍るほど冷え切っていたことに。


「ん?どした、沙織?」

「え?あ、いや…何でもない」

「あ、そう」


 そういうと、また考え始めた。


 いつも無表情だし、何考えてるのか全く分かんないんだよね…。


 とりあえず、弘毅が考え込んでいるときは、目を見ないようにしよう。




 放課後になって、私は校舎裏に呼び出された。


「それで、何か用?生天目さん」

「ええ。──というか、本当に気付いてないんですね」


 …え?何に?


「分からなかったんですか?私があなたたち以外にばかり話しかけていたこと」

「それは…分かったけど。じゃあ、なんであんな事したのよ?」

「何でって…ホントに分かってらっしゃらないんですか?」

「は…?」


 なんなんだろう。全然わからない。


「わざわざあなたたち以外にたくさん話しかけているんですよ?何でするかって、そんなの、あなたへの嫌がらせしかないでしょ?」

「…は?」


 …嫌がらせ?私に?転校生が?どうして。


 私、生天目さんと初めて会ったはず。


「どうして…どうしてそんなことするのよ!?」

「どうしてって…実は私、高みにいる人をどん底に突き落とすのが趣味なんですよ」

「…は?」

「だから、あなたを慕うみんなの注目をすべて私に集める。そうしたら…あなたはひとりぼっち、ですよ?あなたは他人の助けがないと生きていけない弱い人間。そんなあなたから、他人の助けを奪うと、どうなっちゃうんでしょうね?そうそう、例えば…日村弘毅くん、とかね?」

「っ!!アンタ、いい加減にしなさい!」

「あらあら、感情的になるのはよくないですよ?落ち着いて、落ち着いて。どうせ明日のこの時間には、結果は見えてますから…ね?」

「は?…アンタ、何するつもりなの!?」

「素直に言うと思いますか?それとも、相談してみたらどうですか?愛しの弘毅くんに。まあ、最も、自分は1人で何とかなるっていうなら、それは構いませんが」

「なっ…アンタ、弘毅に手ぇ出したらただじゃおかないからね!?」

「あら怖い。明日が楽しみで笑いが出てきそうですよ」


 そう言うと、生天目さんは帰っていった。


 体の震えが止まらない。だって、こんなこと人生で初だから。


 もちろん、アイツに相談なんてできるはずがない。何されるか分からないから。


 アイツだけは、守らないと…!


 でも、怖い。やっぱり怖い。


 思わずしゃがみこんでしまった。ああ、私はやっぱり──



「だれか、助けてっ……!!!」



 ──弱い。





 この時、彼女たちは気付かなかった。


 自分たちに向くスマホと、スマホを構える1人の少年に。


 彼女が立ち上がり、ふらふらと帰路につくのを見届けた後、彼は闇に溶けていった。

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