第7話:終わりの始まり

 シャーペンをあげたらとても喜んでくれた、というLINEが来てから、少しばかりの月日が経った頃。


 なぜかは知らないが、アイツはよく俺に話しかけてくるようになった。


 しかもたまに出てくるツンデレは治っていない。いや、ツンデレじゃないか。


 俺フラれてるし。


 なんだかんだで今日も一緒に下校していると、沙織がこんな話を持ちかけてきた。


「ねぇ、知ってる?明日、転校生が2人来るんだって」

「へぇ〜」

「どんな人なのかな」

「さあね〜」

「…ねえ、興味ある?」 

「ぶっちゃけ言うと、全くない」

「持ってよ!」


 ないんだから仕方ないじゃん。


「じゃあね」

「おう。また明日」


 別れた後、言われた通り転校生について興味を持つことにした。


 今空いてる席は俺の隣か沙織の隣。…まじか。


 面倒ごとを押し付けられそうな予感がする。


 …あれ?興味を持つってこんなんでいいのか?



「…あ、弘毅。うぃーっす」

「おう。あれ、川口?元気なさそうに見えるけど、大丈夫か?」


 教室に入ると、いつもうるさい川口が静かに椅子に座っていた。


「聞いてくれ、弘毅。俺、実はな…」

「…?」

「今めちゃくちゃ金欠なんだよ!」

「どーでもいいわそんなもん。聞いた俺が馬鹿だったわ…ん?」


 そういや俺、ラーメン奢ってもらうの忘れてたな。…にやっ。


「なあ、川口」

「俺もう所持金が…そんな顔してるしどうせロクでもないことだろうが、なんだ?」

「確か俺、お前にラーメン奢ってもらう約束してたよな?」

「…おい、嘘だろ?やめろよ?俺は金が…」

「今日、一緒に行こうぜ。ちょうど今、『隠岐の忌子』のデカ盛りラーメン カーストセイクリッドメガエクスプロージョン盛りトッピング全部載せが食いたくなってきたとこなんだわ」

「おい!それ一番高いメニューじゃねぇか!しかもトッピング全部載せは鬼畜!てかまずお前食えんのか!?」

「大丈夫。1回完食したことあるから」

「…今度じゃだめですか?」

「約束したよな?奢ってくれるって。それに俺はあの時言ったぞ。『俺が奢って欲しい時に言うからな』って。お前はこう返した『おう。いつでも来い』ってな。だからだめだ。今日行くぞ」

「そんなぁ〜」


 …改めて考えてみると、あの料理名、ツッコミどころ多すぎだろ。


 そこで担任が来たので席についた。


「え〜、今日実は転校生が2人も来てる。みんな仲良くするように」

「え、まじで!?」「どんな子かな、女子?男子?」「美少女だったらいいな〜」「ちょっと男子!下心が丸見えじゃん!ちょっとは隠したら?」


 一気にざわつく教室内。アイツなんで知ってたんだ。


「みんな静かにー。じゃあ2人とも、入っていいよ」


 一気に静まる教室内。ワクワクが見て取れる。


「じゃあ入るよー!」「失礼します」


 そんな言葉と共に入ってきたのは、対照的な2人の美少女。


 クラス中が一気に沸いた。


「じゃあ、自己紹介をどうぞ」

「はーい!じゃあ私から!巫部かんなぎ美亜って言います!これからよろしくー!」

「次は私ですね。生天目なばため莉央といいます。よろしくお願いします」


 巫部さんが黒髪ショート、生天目さんが黒髪ロングと、髪型が性格を表してるみたいだ。


 …ショートは明快、ロングはおとなしいというのは偏見だろうか。


 というか、性格180度真逆だな。なのになんで苗字がちょっと難読ってとこは共通してんだよ。


「今空いてるのは、あそこの日村の隣か、そこの倉石の隣だが、どっちがい──」

「じゃあ私、日村くんの隣がいい!」

「じゃあ私は倉石さんの隣でお願いします」

「じゃ、お二人さん、よろしくな」

「はい、分かりました」

「…拒否権は」

「お前は非常任理事国だろが」

「戦争をした覚えも敗戦した覚えもないんですけど」

「…よく分かったな。あと、戦争をしたかしてないかはあまり関係ないぞ。常任理事国以外は非常任理事国だからな」

「へーい。というかこんぐらいのもん誰でも分かりますよ」

「じゃあ、周り見てみろ」


 言われた通りにしてみると、全員ぽかんとしていた。


 いや、川口はいいとして(馬鹿だから)お前はダメだろ、沙織。


 中学校の内容ですよ?


 ちなみに、国連には常任理事国と非常任理事国というものがあり、常任理事国に与えられている特権が拒否権だ。その常任理事国である米英仏露中の5カ国は第二次世界大戦の戦勝国である。


 ここから来た会話だったのだが、他の人には通じてなかったようだ。


 と思ったら、隣の隣から声がかかった。


「…なるほど。そういえば、常任理事国は戦勝国でしたね?」

「お、正解」

「え?…ああ。そういうこと」


 どうやら生天目さんは分かったようだ。ついでに沙織も気付いたようだ。


 と、今度は反対側の隣から声がかかってきた。


「えー!すごっ!日村くん頭いいー!」

「え…そうか?」


 うわ…眩しい。キラキラした目で見てくる巫部さんが眩しい…!


「はいはーい、みんな前向いてー」


 担任の言葉がなかったら俺、死んでたかも。たくさんの視線のせいで。


 というか、視線のほとんどが恨めしげなのは気のせいだろうか。いや、絶対そうだ。


 理由もわかる。まず、左の隣の隣が生天目さん、左隣が沙織、そして右隣が巫部さん。


 学校でもトップを争うような美少女に挟まれてるんだもんな…だから嫌だったんだが。


 ここ気まず〜。席替えしてぇ〜…ああ、そういえば昨日したな。


 不幸だー!


「…これから、よろしくね?弘毅」

「…え?」


 …今、なんて?

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