第5話:どうしてこうなった

 翌日の土曜日。駅前に着くと、そこには結構な人数の人がいた。


 待ち合わせ場所である知らない人の銅像の前には、もうすでに沙織がいた。


 俺は服に対する知識が皆無なので、具体的になんという服なのかはさっぱり分からないが、あえて言うとしたら、それは白いシャツにロングスカートだった。色は緑っぽい色。清楚系ってやつ?


 似合っていたのは言うまでもない。この俺が、柄にもなく見惚れてしまったほどだ。


 周りからの視線もすごかった。ヒソヒソ話す声も聞こえてきた。誇らしい反面、ちょっとイラッときた。


 俺は一瞬で無表情に戻ると、沙織に話しかけた。


「わり、待たせちまった」

「………」


 あれ、無視?それとも、気づいてない?


 もう1度声をかけてみるも、結果は同じだった。


 何か考え込んでるみたいだし、邪魔しないほうがいいかと思いつつも、こいつの驚いた顔を見てみたいという好奇心と大勢の目に晒されることに対する嫌悪感から、俺は肩を叩いた。


 ぽんぽん。


「ふにゃぁ!?」

「うわ!」


 沙織がいきなり大声を出して、こちらが逆に驚いた。…今の声は?


「こ、弘毅…!?」

「お、おう。弘毅だぞー」


 振り返った沙織は、目を見開いていた。…ほんとに気付いてなかったのか。


 心臓を抑えつつ、冷静になろうとして、気付いた。


 周囲の視線に。


「あ〜、沙織?とりあえず、移動しようか」

「ふぇ?…あ」


 まだ落ち着いていない様子の沙織も、どうやら気付いたようだ。

 

 顔がどんどん赤くなっていった。


 そして…


「〜〜っ!」

「って、おい!どうした!?ちょっ…速すぎんだろ!?」


 声にならない悲鳴を上げると、全速力で走り出した。


 …さすが沙織。もう見失っちまったよ。



「はあ、はあ、げほ、おえっ」

「だ、大丈夫?」

「そんなの、はあ、見りゃあ、げほげほ、分かる、はあはあ、だろっ」


 幸にも、すぐに沙織が冷静になってくれたおかげで、30分で合流することができた。


 走り出してから”すぐに”冷静になったのに、合流するのに30分もかかったのだ。沙織の足の速さがどれほどのものかは、想像に難くない。


 ちなみにスマホは、沙織が走ってる最中に落としてしまったそうな。


 後ほど、無事保護いたしました。


「で、結局、今からどこ行くの?」

「…え?えっと、それは、その…」

「?どうかした?大丈夫か?」

「う…うっさい!いいから行くわよ!」

「?」


 あんな声、初めて聞いたぞ?あんなに感情豊かだったか?俺が知らぬ間にそうなったのかもしれないけど。なんか顔も赤くなっていた気がする。


 なんか、素直になれないラブコメのキャラみてぇだ。


 まあ、いっか。


 俺はずかずかと大股で歩く沙織を追った。


 …そういや、大股で歩く沙織も初めて見たな。

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