第4話:希望と願望

「あら、沙織。おかえりなさい」

「あ…ただいま」


 聞き覚えのある声を聞いて、顔を上げた。


 ぼーっと歩いていると、いつの間にか家に着いていたようだ。


 鍵を開け、中に入る。


「じゃあ、食事の準備してるから、呼んだら降りてきてね」

「うん、分かった」


 そう返事をして、2階にある自分の部屋に向かった。


 部屋に入ると、ドアを閉め、電気をつけて一息つく。


 そして、ベッドに倒れ込んだ。


 いまだに、心臓は鳴っている。もう、弘毅はいないはずなのに。


 頭の中に、さっきの弘毅の姿がよみがえる。


 何年ぶりに見たか知れない、あの笑顔。


 思い出して思い出して、心が温まっていく感じがした。話せただけでも万々歳だと思っていたが、こんな報酬がついてきた。


 ああ、会いたい。会って、もっと話をしたい。また、あの笑顔を見たい。


 そう思ったときには、体がもう動いていた。


 はっと意識が戻ってきたときに真っ先に目に入ってきたのは、LINEのメッセージ画面。


 そこにはもう、メッセージが入力されていた。


 私は送信ボタンを一寸の迷いもなく押した。


 送信すると、30秒くらいで既読がついた。


 返信が来た。


 これで、明日話せる。また、あの顔を見れる。


 そう思い、顔がほころんだ。思わず、足をじたばたさせてしまう。


 が、それと同時に一気に目が覚めた気がした。


 …会うのはいいけど、何を話せばいいんだろう。


 理由はあるにしても、私はさっき、弘毅をフッた訳で。


 弘毅は私にフラれた訳で。


 そんな状態で会っても、気まずいだけじゃない?


 それに…それに。


 弘毅に会ってしまったら、私、平静を保てる自信がない。


 ああ、どうしよう。やってしまった。


 ベットの上でごろごろしながら悩んでいると、お母さんが私を呼ぶ声が聞こえた。


 どうやら、かなりの時間がたってしまったみたいだ。


 私は返事すると、1階に下りた。


 何とかなるでしょ、という希望的観測を抱えて。



 ご飯を食べ、風呂に入ってから、私は勉強を始めた。


 予習復習は大事だしね。


 でも、それは理由じゃない。


 ただ、アイツに…弘毅に追いつきたいだけ。同じところに立ちたいだけ。


 学校の点数は私のほうが断然上。でも、それは、弘毅が真面目にやっていないから。


 なぜか知らないが、弘毅はある時期からめちゃくちゃ勉強するようになった。そしてそれも、私と弘毅の距離が広がる要因の一つとなってしまった。


 だから多分、今の弘毅はとても頭がいいはずなのだ。それでも真面目にやらないのは、なんでだろう。


 まあいいか。いつか分かる。そう思い、私は勉強を続けた。


 …いつか、同じところに立てるといいなという叶うとは思えない願望を抱いて。

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