十七万 迅雷御
「というわけで、ダンジョンのボスを倒しにいくぞー」
「何がというわけだ、全く説明してないだろ」
ということで、ダンジョンのボスを倒しにいくことになった。
草原のダンジョンを、針をしまったネズミモードのヘッグが駆けていく。
時々出て来る魔物を倒しながら、一行は最奥にいるボスのエリアをへと向かっていた。
「で、どうしてボスを倒す必要があるんだよ」
「まず、ギョクサイの角から取れるクギヒストニン酸の適正値を見つけることはできたんだ」
「……あー」
「だが、今度はクギヒストニン酸と同時に、少量ながらローイクギニストン酸が発生することが判明した。アレには強い毒性がある。無視はできない」
「……」
「今度はローイクギニストン酸を中和する水酸化グレイミストがいる。その水酸化グレイミストを摘出する方法は色々あるが、一番早いのはジンライオンの
……どうやら、リサは人に説明するのが好きな
長文で説明され、半分くらい意味が分からなかったが、最後ので大体は察した。
「要するに、薬にジンライオンの
「……そういう認識でかまわないよ」
「それで、そのジンライオンというのが、このダンジョンのボスと」
「その通りだ。ジンライオンは強力な魔物らしい。入念に準備をしておくといいよ」
そう言いつつ、リサは銃の手入れを始めた。
索敵はナートに任せて、ヴァルも剣の手入れと、手持ちの金の確認をしておく。
四十万強といったところか。
「ちょっと不安だな。……先に教えてくれてたら補充して来たのに」
「すまんね。じゃあ、代わりにこれを貸してやろう」
そう言ってリサが差し出したのは……ポケットに入りそうなくらいの、小さな銃。
「拳銃というやつだ。遠距離の牽制くらいには使えるよ。リボルバー式で、六発しか打てないから注意したまえ」
「はえー」
右手だけで拳銃を持ち、片目で覗き込んだ。
『違う違う』と止められ、両手で銃を持たせ、両目で見るように矯正される。
試しに適当に見えた魔物に撃ってみたが、地面に刺さり土煙が立つだけだった。
「ダメだこりゃ。本当に牽制用って感じだな」
「こんな足場じゃ仕方ないと思うけどねぇ」
多分使わないだろうと思いつつ、ポーチのいつでも取り出せる位置にセットしておいた。
同時に、草原を駆けていたヘッグの足が止まる。
草原に似合わない、風変りな看板。
そこには『この先ボスエリア。半端な者は引き返すべし』と書いてあった。
以前のパーテンダーの様に、迷った人が誤って侵入しないためのものだろう。
「キル!」
「ありがとな。……ちなみに、金属の補充は十分か?」
「キル!」
「そうか。よかった」
「……どうして今ので分かるのですか?」
戦闘の時はハリネズミのフォルムの方が向いているらしく、ヘッグはそっちで挑むらしい。
「っし、やるか」
「
リサの小言を聞きながら、草を掻き分けて進んでいくと……広い草原で寝る、金色のライオンが一体。
あれがジンライオンというヤツか。
そこまで大きく無いのに、どこか存在感がある。
こちらの気配を感じ取ったのか、ジンライオンは低い唸り声を上げながら起き上がった。
ヴァルもカリバーンを抜き、戦闘態勢を整える。
ヘッグがいつも通り前衛を務めようと前に出ようとしたが、何となく嫌な予感がして、ヴァルは手でそれを制した。
「一旦俺が前衛を務める」
睨み合い、緊張感が高まる。
「ガア!」
ジンライオンは姿勢を低くし――黄閃。
ナートと同じかそれ以上の速度で接近し、その鋭い爪を振るう。
「ッ!」
咄嗟に二万使ってそれを受け止め……バチバチバチ!
ジンライオンが電気を纏い、それがカリバーンを伝ってヴァルに流れ込んできた。
感電して体が痺れ、もう片方の腕が腹に刺さった。
咄嗟に一万を全て防御に注ぎこんでダメージを減らすも、ふっ飛ばされてしまう。
ズザザ!
勢いよく地面を滑り、草に引っかかって止まった。
カリバーンを杖にしえ立ち上がろうとしたが、体の痺れはまだ収まっていない。
「……ジンライって、迅雷ってことかよ」
まだ一手しか行っていないけれど、大体の戦術は分かった。
迅雷のような速度で距離を詰め、麻痺を含んだ腕で防御不能の攻撃をしてくる。
受け止めるとこのありさま。躱すのが得策か。
さて、痺れは治った。ヴァルが戦線離脱している間は、ナートが持たせてくれたらしい。
ヴァルの反応から全てを察したのか、攻撃を全て躱している。
「早く戻ってきて下さい!」
「悪い」
余裕をもって五万をスピードに注ぎこみ、ついでに持続時間にも二万。
もう、幾ら使ったのかは考えないことにした。
強化が完了した瞬間、ジンライオンに向かって駆け出す。
「こっちにもいるぞ!」
「ガオ!」
地を薙ぐ様に振るわれた腕を軽く跳んで躱し、カウンターとして剣を振るう。
それは容易く避けられたが、感電の危険があるので、元から当てる気は無かった。
ナートも、回避一辺倒で攻撃する気が無い。
では、どの様にダメージを与えるかというと――
ダンダン ダン!
「ガア!」
銃声が響き、ジンライオンの体に小さな穴が空く。
それを成したのは、もちろんリサだった。
「フッ、百発百中さ」
「三発しか撃ってないし一発外してるだろ!」
「ガオ!」
攻撃がさらに過激になったが、ヴァルとナートは危なげも無くそれを避ける。
瞬間、さらに四つの銃弾がジンライオンに刺さった。
ヴァルとナートが前にいるのに、巧妙にその合間を縫って銃弾を通している。
彼女は弾が無くなった銃を放り、新たに新たにマシンガンを構える。
「ナート」
「……3、2、1〈霊〉」
「フルバーストー!」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
ヴァルは邪魔にならないように少し距離を取り、リサはナートを無視して銃を乱射し、ナートはそれを霊体化で透過する。
その弾丸のほとんどがジンライオンの頭に着弾した。
ダッ
「チッ、弾切れか」
「ガアアア!」
誰が一番の脅威か把握したのか。
数十発の弾丸を受け、血だらけになりながらも、ジンライオンはリサの方に突っ込んで行く。
「キル!」
その前に立ちふさがるヘッグ。
簡単に倒せると思ったのか、ヘッグを攻撃しようとし――彼女の体から無数の刃が生えてきた。
「ガ!?」
咄嗟のことで躱せず、ジンライオンは剣山に正面から突っ込み、体中に切り傷ができる。
さらに背後から、
「三万〈飛閃〉!」
「ガォ!」
ヴァルが飛ぶ斬撃を放ったが、間一髪で躱されてしまった。
そのまま、体勢を立て直そうと一旦退いていく。
「チッ。大丈夫かヘッグ。感電とか」
「キル!」
「……見た目、電気通しそうなのに」
「避雷針の要領で、地面や草に流れているのかもしれないね」
「ひらいしんって何だ?」
「……化学用語さ」
よく分からないが、とりあえず大丈夫らしい。
「このまま、リサの銃で削っていく感じで行くか」
「そうだね。……アイツがそれを許してくれるなら」
「ガアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
一際大きな咆哮が響き、ジンライオンが雷で包まれた。
すぐにリサはリロードしたアサルトライフルを構え直し、十発ほど撃ちこむも、あまり効いている様子は無い。
「何ですか、アレ」
「……強化状態かもしれない。だが、長持ちはしないタイプだろう。息切れさせれば、こっちの勝ちだ」
「……なるほど」
言いながら、二万で効果時間を延長させる。
強化幅が大きければ効果時間に使う金額も多くなるので、かなり出費がかさむ。
「ガウア!」
右に左に反復しながら、真っ先にリサを潰そうと動く。
無論、それを許すヴァルとナートではなく、二間の間に割り込んだ。
剣で攻撃しないことはもうバレていそうなので、借りていた拳銃を構える。
ヴュン!
電気を纏った腕を余裕をもって避け、銃弾を二発叩き込んだ。
照準を合わせるのは下手だが、腕一本分の距離なら流石に当たる。
これで、ジンライオンはヴァルを無視できない。
口を開き、その頑強な牙と顎でヴァルを食いちぎろうとし――ナートの蒼い火矢とリサの銃弾が刺さる。
ジンライオンは無暗やたらに周囲を攻撃したが、そんな闇雲な攻撃に当たる二人ではない。
ヴァルは『これなら何とかなりそうだ』と少し安堵し――ふと、暗雲が目に入った。
さっきまではまばらに雲がある、晴天だった。
ならば、この暗雲は、
ゴロゴロゴロ!
「クッ!」
ヒュッ バチバチバチ!
咄嗟にカリバーンを空に向かって投げ、それに雷が落ちた。
しかし、空に気を取られた分、防御はおざなりになり、さらにその光で一瞬視界が白く染まる。
次の瞬間には横腹にジンライオンの尾が直撃し、ふっ飛ばされた。
「ヴァル!」
「ガウッ!」
一人になったナートに攻撃が集中し、たまらず霊体化。
だが、ジンライオンはナートの実体が無くなったと察するや、すぐに彼女を無視してリサの方に向かって行った。
「しまッ!」
背中に蒼い矢が刺さるが、大したダメージにはならないと無視して。
銃弾の雨の中、標的に向かって突き進む。
ヘッグが盾になろうと間に入るが、彼女のスピードでは迂回されてしまうのがオチだ。
このままでは、リサが殺される。
「……」
その時。
ふっ飛ばされた先で、ヴァルは拳銃を構えていた。
リサに教わった通り、しっかりと二本の足で立ち、右手で引き金に指を掛け、左手で照準を安定させ、両目で相手を見据え、撃鉄を降ろす。
如何に迅雷の名を冠すライオンといえど、ヘッグを躱すために急激な方向転換をするときに、一瞬。
一瞬だけ動きが止まる。
そこを狙う。
「……〈金消費〉持ち金全部、
拳銃が
チャンスは一発。この一発に全てを懸ける。
ヘッグとジンライオンの間が小さくなっていき……運命の時。
予想通り一瞬だけ動きが止まり。ヴァルは照準を合わせて、引き金を引いた。
パァン!
「ガアアア、ァ、ア」
鮮やかな音が響き、金色一閃。
ビームの如き銃弾がジンライオンの頭を貫き、奴は倒れ伏した。
「ふぅ……マジで四十万を使い尽くすとは思わなかった」
「最後のは余分だと思うけどねぇ。まあ、ありがとう」
痺れたままの体を引きずって、みんなの方に近づく。
途中から気を遣う余裕は無くなっていたが、鬣は十分な数が残っていた。
「これならいい薬になりそうだ」
「……それより、全額使ってしまって、帰りは大丈夫なのですか?」
「大丈夫だよ」
ダンジョン最奥。
ジンライオンが寝ていた地点に、魔法陣が浮かび上がった。
「ダンジョンのボスを倒したら、地上に転移できる魔法陣が発生するんだ。数分で閉じるから、早めに撤収しよう」
「ですね」
十分な量の鬣と魔石を取って、エルシオンは撤収していった。
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