十一万 山賊狩り

 ハリネズミのヘッグ観察日誌

 著 ヴァル・アスター


一日目 ご飯の食いつきが悪い。食べてくれはするが、嫌々といった感じだ。


二日目 ご飯をスプーンで口に運ぶと、スプーンに食いついた。他にも色々検証してみたが、金属が好みらしい。


六日目 手のひらサイズだったヘッグは、ヴァルの頭くらいの大きさになった。普通のハリネズミの成長速度は知らないが、かなり早いのは分かる。


十日目 朝起きると、ヘッグの針は刃物のようなものになっていた。文字通り剣山である。さすがに普通のハリネズミでないと気付いた。


十一日目 ヘッグの種族名が、アイアンマウスだということが判明した。金属を食べて針にする魔物らしい。成長が早かったのは、俺達が倒した魔物の経験値が入っていたからだった。


十五日目 鳴き声は『キゥ』ではなく『キル』だということが判明した。『斬る』なのか『kill』なのか。どちらにしても物騒だ。


二十三日目 ヘッグの体長はヴァルの身長ほどになった。それでも以前のように肩に乗ろうとしてきたので、三万で防御を上げて体を持たせようとしたが、ナートに叩いて止められた。


二十四日目 ヘッグは荷物持ちを始めた。俺もナートもパワーは無いので正直とても助かる。


三十日目 『これ以上成長したら同行できなくなるかも』という呟きを聞かれたのか、ヘッグの体長は伸びなくなっていた。親(?)として複雑なところではあるが、ヘッグは幸せそうだった。


三十一日目 俺とナートは止めたが、戦闘にも混ざり始めた。



 現在、羽化から六十日目。


 ヴァルとナートは、馬車ほどの大きさになったヘッグに乗って、ある林道を進んでいた。

 アイアンマウスはハリネズミが異形化した魔物だが、背中の刃は引っ込めることもできるらしい。

 

「重くないか?」

「キル!」

「よしよし。いい子だ」


 素のヴァルとナートではパワーが足りないので、ヘッグの存在はかなり助かっている。

 戦闘では金を使ってカバーするが、戦闘後の荷物運びなどには使いたくない。


 手を降ろしてヘッグの頬を撫で、ヘッグもその手に擦り寄る。

 その様子を見たナートが呟く。


「アイアンマウスはかなり獰猛な魔物なのですが……」

「そりゃ……ヘッグはいい子だから」

「キル!」

「……そろそろ警戒区域ですよ。注意して行きましょう」

「はーい」

「キル」


 今エルシオンが受けているクエストは『公道を封鎖している山賊を討伐する』というものだ。

 北側のある地域の道を封鎖していて、そこを通ろうとする人達から全てを奪っていく。

 既に何人かの冒険者が討伐に行ったが、行方不明になっているらしい。

 そのため、近隣の町がかなりの金額を出した。

 商会の宣伝という意味でも、かなりいい条件のクエストだ。


「Bランクパーティも失敗したらしいし、気を引き締めて行こう」

「キル!」

「そうです、ねッ!」


ヒュッ


 急にナートが矢を撃ち……虚空に矢が止まった。

 【暗殺者】系統が透明化していたらしく、いきなり現れた奴が木から落ちる。


「……よく気付いたな」


 木の裏から、ゾロゾロと荒くれ者が出てきた。

 合計二十人くらいか。全員戦闘称号らしく、剣、弓、槍など、様々な種類の武器を持っている。


 警戒しながら、二人はヘッグから降り、それぞれの獲物を構えた。

 ヘッグを中心にして、背中合わせに固まる。


「……一応聞いておくが、投降する気は?」

「あるわけ無いだろ!」


ギン!


 相手の前衛の剣とヴァルの鉄剣が衝突し、鍔迫り合いの状態になった。

 すぐにパワー勝負では勝てないことを察し……一旦力を弱めて引き込み、接近したところを蹴り飛ばす。


ヒュン


 ひと段落と息をつこうとしたところで、頭に飛んで来た矢を素手で止めた。

 そのまま、次に突っ込んで来ようとした奴に矢を返却し、避けたところに回し蹴りを叩き込んだ。



「さすがに素のままではキツイか」


 とりあえず二万で、ステータスを全体的に上げておく。

 しかし、人間相手なので『大火力で一気にドカーン』が出来ないのは辛い。

 もし殺してしまっても罪に問われることは無いが……普通に無理だ。


「どうするか」

「キル!」


 ヴァルが真面目に悩んでいると、突然背後のヘッグが叫びを上げ、背中に針代わりの剣山を生えさせて立ち上がった。

 ただの変わった馬くらいに思っていた山賊は、驚きつつも武器をヘッグに振りかぶり……背後から迫っていた者達は剣山で切り裂かれ。

 正面から挑んだ者は、金属のような手で受け止められ……ヘッグはその武器を奪い取り、バリバリと食い始めた。


「な、なんだコイツ!?」

「キル!」


 剣や槍の鉄を食べて元気になったのか、丸まって剣山を全面に出し、凶器の塊となる。

 そのまま、ボールの様に転がって暴れ始めた。


「ひ、〈飛閃〉」

「〈星矢〉!」

「キイイイイイイイイイイイイイイイ!」


 山賊達は遠距離のスキルを放つが、その程度でヘッグは止まらない。

 人、武器、木などなど、全てを薙ぎ倒していく。


 こうして、ヘッグは一匹で山賊をほぼ全て殲滅してしまった。


「……敵じゃなくてよかった」

「そうですね」


 どうやら、逃げようとした山賊を捕まえていたらしい。

 ナートは両手で山賊を引きずっていた。


「俺、何もしてないんだけど。絶対二万も使う必要なかったよ」

「ほら、二万で山賊を縛って下さい」

「はーい」


 ロープで血だらけの山賊の手足を縛っていく。

 運が良かったのか、狙っていたのか、死傷者は一人もいなかった。


 それから、ヘッグが鉄のソリの様なものを作り、山賊たちをそれに乗せて近くの町まで連行した。

 ちなみに、ヘッグがおらず、ヴァルが無理やり運ぶとすると、十五万はかかった。


「やっぱ、一人くらいパワー型が居た方が便利だな」

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