九万 初依頼

「さーて、どの依頼を受ける?」

「そうですね」


 ヒリックもここに来るかもしれないので、早めに去っておきたい。


 エルシオンは商会の宣伝を主目的としている。

 なので、依頼の選定基準は、採集や護衛よりも、村や街に襲い掛かる危険な魔物の討伐が優先されるのだ。

 ヴァルはザっと掲示されている依頼を見て、その中の一つを選び取った。


「これかな」


街を襲うワイバーンの群れの討伐


 報酬が相場よりも多くなっている。書かれてはいないが、緊急性があるのだろう。

 距離的にも、難易度的にも、これが最適。


「ナートもこれでいいか?」

「私はまだよく分からないので、あなたに任せます」


 こうして、エルシオンの初依頼は、ワイバーンの群れ討伐になった。


「ナート、町まで走ったらどれくらい掛かる?」

「無理をしないなら、四時間くらいで」

「じゃあ、七千くらいか」


 銀貨七枚、七千ランを、スピードと効果時間に割り振る。

 これで、ナートにも付いていけるだろう。


「じゃあ、行こうか」

「はい」


 二人は凄まじい速度で、目標の街へと駆けていった。





 ナートの言った通り、四時間後。

 依頼を出したスカルム町に着いた。


 さすがに王都よりは遅れているが、家はレンガで作られていて、街には街灯が並んでいる。

 畑や家畜などは少なく、かなり商業に力を入れている印象。


 しかし、その人通りはどうにも少なく……端の幾つかの建物は壊れかけている。

 例のワイバーンのせいだろうか。


「見た感じ、ワイバーンの姿は見えないな」

「ですね」


 とりあえず、依頼の主である町長さんに話を聞きに行くことにした。

 丁度お腹がすいていたので、街の露店で食べ物を買いながら、村長のいる場所について聞く。


「この串焼き一つ……ナートもいるか?」

「はい、欲しいです」

「じゃあ二つ下さい」

「はーい」


 店員がタレの中から串焼きを二本取り出し、ヴァルに渡す。

 その間に、


「村長ってどこにいるか分かります?」

「さあ? あっちの公民館にいるんじゃない?」

「ありがとうございます」


 串焼きを二本受け取り、代金を支払って、公民館に向かう。

 串焼きの片方は、ナートに渡した。


「うん、美味いな」

「……うちの商品の方が美味しいですよ」

「そうだな」


 適当に相づちをうちつつ、店の人が教えてくれた方へと歩く。


 あと少しで公民館に着くというところで、一人の男が出てきた。

 役人の一人かと思ったが、彼はヴァル達を待つように立ち止まる。


「アンタは?」

「ここの町長、ロウィンといいます」


 ……バルク村の村長のような貫禄は無い。

 媚びた笑みを浮かべ、モミ手を握る。


「あなた方が王都の冒険者ギルドから派遣された冒険者ですか?」

「そうです。依頼は十数体のワイバーンの撃墜、でしたね」

「そうです」

「そのワイバーンはどこに?」

「多分、そろそろ」


「ギャース!」


 上空から咆哮が轟き、上を見ると、ワイバーンがいた。


 緑色の、人より少し大きいくらいの最弱ドラゴン。

 だが、最弱というのは龍種最強種族の中の話であり、その脅威度はCランクはある。


 さらに問題なのは、その数。

 十、二十、三十――数えるのが嫌になるくらいは飛来し、空が緑で埋め尽くされる。


「オイオイオイオイ!」

「依頼では十体ほどでは?」

「昨日までは十体ほどだったのですが……ちょっと増えてますね」

「嘘つけい!」


 やけに報酬が多いと思っていたら、数を詐欺っていただけだった。

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