九万 初依頼
「さーて、どの依頼を受ける?」
「そうですね」
ヒリックもここに来るかもしれないので、早めに去っておきたい。
エルシオンは商会の宣伝を主目的としている。
なので、依頼の選定基準は、採集や護衛よりも、村や街に襲い掛かる危険な魔物の討伐が優先されるのだ。
ヴァルはザっと掲示されている依頼を見て、その中の一つを選び取った。
「これかな」
街を襲うワイバーンの群れの討伐
報酬が相場よりも多くなっている。書かれてはいないが、緊急性があるのだろう。
距離的にも、難易度的にも、これが最適。
「ナートもこれでいいか?」
「私はまだよく分からないので、あなたに任せます」
こうして、エルシオンの初依頼は、ワイバーンの群れ討伐になった。
「ナート、町まで走ったらどれくらい掛かる?」
「無理をしないなら、四時間くらいで」
「じゃあ、七千くらいか」
銀貨七枚、七千ランを、スピードと効果時間に割り振る。
これで、ナートにも付いていけるだろう。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
二人は凄まじい速度で、目標の街へと駆けていった。
◇
ナートの言った通り、四時間後。
依頼を出したスカルム町に着いた。
さすがに王都よりは遅れているが、家はレンガで作られていて、街には街灯が並んでいる。
畑や家畜などは少なく、かなり商業に力を入れている印象。
しかし、その人通りはどうにも少なく……端の幾つかの建物は壊れかけている。
例のワイバーンのせいだろうか。
「見た感じ、ワイバーンの姿は見えないな」
「ですね」
とりあえず、依頼の主である町長さんに話を聞きに行くことにした。
丁度お腹がすいていたので、街の露店で食べ物を買いながら、村長のいる場所について聞く。
「この串焼き一つ……ナートもいるか?」
「はい、欲しいです」
「じゃあ二つ下さい」
「はーい」
店員がタレの中から串焼きを二本取り出し、ヴァルに渡す。
その間に、
「村長ってどこにいるか分かります?」
「さあ? あっちの公民館にいるんじゃない?」
「ありがとうございます」
串焼きを二本受け取り、代金を支払って、公民館に向かう。
串焼きの片方は、ナートに渡した。
「うん、美味いな」
「……うちの商品の方が美味しいですよ」
「そうだな」
適当に相づちをうちつつ、店の人が教えてくれた方へと歩く。
あと少しで公民館に着くというところで、一人の男が出てきた。
役人の一人かと思ったが、彼はヴァル達を待つように立ち止まる。
「アンタは?」
「ここの町長、ロウィンといいます」
……バルク村の村長のような貫禄は無い。
媚びた笑みを浮かべ、モミ手を握る。
「あなた方が王都の冒険者ギルドから派遣された冒険者ですか?」
「そうです。依頼は十数体のワイバーンの撃墜、でしたね」
「そうです」
「そのワイバーンはどこに?」
「多分、そろそろ」
「ギャース!」
上空から咆哮が轟き、上を見ると、ワイバーンがいた。
緑色の、人より少し大きいくらいの最弱ドラゴン。
だが、最弱というのは
さらに問題なのは、その数。
十、二十、三十――数えるのが嫌になるくらいは飛来し、空が緑で埋め尽くされる。
「オイオイオイオイ!」
「依頼では十体ほどでは?」
「昨日までは十体ほどだったのですが……ちょっと増えてますね」
「嘘つけい!」
やけに報酬が多いと思っていたら、数を詐欺っていただけだった。
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