八万 冒険の始まり 八万五千 勇者パーティ
また二日かけて、バルク村から王都に戻って来た。
マーチェをエルシオン商会の本部に置いて、ヴァルとナートは新たに与えられた任務をこなすため、王都の冒険者ギルドに赴いた。
「ナートはまだ冒険者登録をしていないんだよな?」
「はい。ずっと姉さんの護衛をしてましたから」
「じゃ、新規登録だな」
そんな話をしているうちに、ギルドに着いた。
勇者パーティを追い出された者として、少し気まずいところではあるが、覚悟を決めて建物に入った。
集う荒くれ者たち。昼間から酒を囲み、如何にも冒険者ですというような顔をしている。
魔物が活発化しているせいか、心なしか掲示板に張られている依頼が多く。
受付では、冒険者のやる気を引き出すためか、綺麗なお姉さんが待っている。
「うん、いつも通りだな」
「これがいつも通りなのですか……」
「ほら、新規登録はあっちだ」
呆れるナートを連れて、新規登録用の窓口に向かう。
「お願いします」
「はい。お名前は――」
他愛の無い質問が続く。
まあ〈悪性判定〉に引っかかってない時点で、通るのは確実だ。
面倒なのは――
「では、認定試験としてスライムを三体倒してきて下さい」
認定試験。
最低限の強さを持っていることを証明するもの。影から見守りも付くし、とても安全で必要なものだが、ナートに取っては不要でしかない。
そのため、
「そういえば、報告しておきたいことがありまして」
ナートはバッグに手を突っ込み……巨大蜘蛛の牙を取り出した。
「バルク村の巨大蜘蛛、討伐してきました」
「巨大蜘蛛……このサイズですか。お一人で?」
「いえ、彼と二人です」
嘘をつく訳にもいかないので、近くにいたヴァルも合流する。
しかし、牙のサイズから、蜘蛛がBランク上位相当なのが分かるだろう。それを二人でとなると、待遇も変わって来る。
「これで、何とかなりません?」
「……特例ですよ」
身のこなしから、ただ者では無いと見破っていたこともあるのだろう。なんとか通してくれた。
ついでに、パーティ登録もしておく。
「パーティ名は……宣伝も兼ねてるし、エルシオンでいいか」
「自分のファミリーネームが、と考えると気恥ずかしいのですが」
「それはマーチェに言え」
「こうして、後に伝説として語り継がれるパーティ、エルシオンが発足した――」
「それ全てのパーティに言ってますよね?」
受付さん恒例の語り口調を聞き、登録は終わった。
「そういえばヴァルさん、ヒリックさんが、あなたを探してましたよ」
「……まだ絞り足りないのか。できるだけ鉢合わせないようにしないと」
◇
「不味いー!」
「仕方ないでしょう。出先でまともなご飯が食べられると思わないで下さい」
ウィズマが文句に声を上げ、セインが自分にも言い聞かせるようにそれを諫める。
勇者パーティの面々は、モンスター討伐の道中、適当に焼いただけの昼飯を食べていた。
王都では高級品ばかり食べてるだけあって、よりその差が際立ってしまう。
この前までは、ヴァルが作っていたので気にならない程度にはなっていたが、いなくなって初めてありがたみに気付いた。
「誰か料理の一つくらいできないの!?」
「そんな人中々いないよ。それに、これも結構美味しいじゃん」
美味しそうにただの丸焼きを食べるのは、新入りの【
賢者と聖女は後衛で、勇者のステータスも割とアタッカーに寄っているので、耐久が高い騎士を迎え入れたのだ。
彼女自身は騎士系の中で最強と言われるだけあって、とても優秀なハズなのだが――正直言って、体感的にはヴァルと何ら変わらない。
足りない力を金で補う劣等者と見下していたのだが、仕事自体は自腹を切ってきっちりこなしていたのだ。
そして実力がほぼ同じなら、料理ができて、分け前を減らすこともできる、ヴァルの方が便利だった。
一応ラティにも報酬を減らそうと交渉してみたが――
「嫌だ!」
「でも、あなたの活躍量はとても私たちには及ばな――」
「嫌だ!」
「……」
「嫌だ!」
どうも頑固なところがあるらしく、まともに話も聞かなかった。
しかも、ラティは国教の教皇の娘らしく、無理に分け前を減らしたり、パーティから追い出したりするのも難しい。
何より、ヴァルが居なくなってから、全体的な動きが悪くなっている気がするのだ。
「……これなら、ヴァルの方が良かったな」
ヒリックは誰に言うでもなく、呟いた。
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