第4話正体
その後、帰路に着いた時
少年少女が公園で話している姿が目に入った。
すぐ近づいた。
「やぁ、お疲れ様。」
2人は驚いた様子で振り返った。
「あぁ、おじさん!」
「で、どうだったんだ?」
「俺、会社やめることにした。」
「大丈夫なの?」
「なんとかやってみるよ。上司もいい人だった。俺の慕っていた先輩みたいだった。」
「先輩……?」
「お前ら…知りたいのか?」
「まぁ、ここまで協力してきた仲だからな。」
「俺ははみ出しものとして、孤独な大学生活を送ってた。そんな生活に嫌気がさして、サークルに入ったんだ。多分人の温かさに飢えてたんだと思う。そこで、出会った先輩がいた。その分、成績が少し下がったけど。
この人は卒業するまでずっと連絡も取り合ったり、時々飲みに行く仲にまで発展した。
優しく、誰に対しても平等接する人。
そして、俺の同じキラキラネーム。だった。」
この、キラキラネームという言葉を聞いた瞬間2人の顔が強ばった。
「なぁなぁ、その人今どうなってんの?」
「急に連絡が無くなったんだよな。
卒業して、就職してからはそれぞれ忙しいのもあるのかなって思って連絡もしづらいから、
向こうから連絡が来るのを待ってるんだ。」
「……」
2人は黙った。そして、俯いた。
風で落ち葉が飛んでいく音が響く。
「今日は俺たち帰るわ。ごめんな。」
「なんだ、疲れたのか?せっかくの金曜日なのに。まぁ、俺が何とか言うことじゃねぇな。
お疲れ様!」
「じゃあおじさん!バイバイ!」
「おっさん。じゃあ。お疲れ様。頑張れよ。」
「あぁ。ありがとうな!じゃあ!」
そう返事をした俺は笑顔だった。
そして、3人は別れた。
俺はコンビニで夜食とお酒を買った。
お酒は得意では無いが、明日は休日少しくら位なら大丈夫なので、夜食をつまみに祝杯をあげようと思ったのだ。
翌日
「イタタ…」
激しい頭痛と一緒に目が覚めた
机の上に乱雑に置かれた缶ビールから
俺はおそらく酔いつぶれたのだろうと知った。
「何年ぶりだよ…たく…」
少し苛立ちながら冷蔵庫から納豆を取り出す。
それと、解凍した冷凍ご飯を朝食として食べた。
久しぶりに、先輩に会いたいと思った。
けど、返信は来ないので連絡が取れない。
「お久しぶりです。先輩」
そうよって昨日連絡を送っていたようだ。
けど、返信は毎度同じく無し。
とても虚しい。
大学の教授にでも会ってみるか。
そう思い、俺は大学を尋ねた。
その結果先輩の所在を直接知っている訳では無かった。けど、先輩の友達に連絡してもらって夜に会うことになった。
「あの教授いい人だけど、話長すぎんだよ。」
今は4時。時間までどう時間潰してやろうか。
テレビでも見て時間を潰すか?そう考えて、テレビをつけた。
「速報です。あの火事の家から手紙のもう一方が見つかりました。そして、解読されました。その内容は」
「幸せにできなくてごめんね。お父さんのためにも頑張りたかったのよ。けど、もう限界。
せめて成人にはしてあげたい。だから
私は――――」
俺は衝撃を受けた。そして、この人は暖かく優しい人。俺には分かる。あの先輩のような人だったんだと。
世の中の残酷さをこのニュースを見る度にひしひしと感じる。
俺は次の職は心のメンタルケアに携わりたい。
そして、俺のような闇を持った人を助けていく事がしたい。そして、このニュースのような事を起こさない。そんな世界にしたいと思う。
そんなことを考えていたら時刻は6時30分。
約束の時間は7時30分。移動も考えればもう出ないといけない時間だ。
俺はそっと扉の取ってに手をかけた。
1駅超えたあと、そこには待ち合わせに指定された真新しいレストランがあった。
そして、1人で席を取り彼を待った。
中は家族やどこかの学生の集団などとても賑わっていた。
そんな中1人で席に座る事に抵抗が湧いてきた。
けど、そんな時間は長くは続かなかった。
「こんばんは。お待たせしました。立花さん!」
「あ、初めまして。」
「私の名前、教授から聞きました?」
「いえ、まだ…」
「私の名前は佐藤 茂(さとう しげる)です!」
「佐藤さん!よろしくお願いします!」
「話の前に、とりあえず飲み物頼みません?喉が渇いて…」
「そうですね!」
そんな事を話していた時に、
「こちらお水になります。」
お店から水が入った大きめの入れ物とコップ2つが渡される。
「ありがとう!」
「やっぱこれでいいか」
そう佐藤さんは笑顔で言った。
「そうですね!」
2人の初対面という気まづい雰囲気が少し打ち解けた。
「それと、もうひとつ聞いてもいいですか?」
「何ですか?」
「あいつとの関係は?」
「サークルの先輩と後輩の中です。僕が尊敬してる先輩です。まぁ、非公認ですけどね」
僕は少し茶化すように言って見せた。
「そうか。」
佐藤さんはそう返事をした途端表情が一変した。柔らかく笑顔で溢れていた表情から、少し硬く真剣な目に変わった。そして、こう言った。
「この話聞いても気は落とすなよ?覚悟を持てよ?」
「ど、どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ。で、どうだ?準備はいいか?」
「はい。」
僕は真剣な顔をして、そう返事を返した。
「結論から言おう。あいつは死んだ。」わ
俺は息を飲んだ。信じられなかった。
「自殺だよ。」
「そんな…どうして…」
「社内いじめだよ。お前も知っているだろうが、キラキラネームが原因のな。」
俺はショックだった。声も出せる状態でも無くなった。
「俺だって最初は目を見張ったよ。
俺はあいつと高校からの付き合いだからな。
つい、こないだまで一緒に遊んだりした奴がいきなり死んだなんてな。信じられる訳が無かった。」
佐藤さんは少し黙り顔を手で覆い隠した。
「そこからはひたすら家から出ずに、現実逃避に明け暮れた。仕事もまともに手が付けられない状態だったよ。だから、一旦実家に戻った。
もちろん葬式に参列した後にな。」
彼の目から涙が少しこぼれる。それにつられて俺も涙を流した。
「あいつは最後まで俺の前では笑顔を崩すことは無かった。いや、あいつが気を使ってそうしたのかもしれない。けど、頼られなかった事の失望感は少しあった。あいつにとってそんな価値だったのかってな。」
「こんな俺が言うのもなんかもしれないが、こういうのは気にするだけ気にしとけ。変に気にしないようにすれば、逆に思い出してしまって、記憶に残っちまう。だから、気にしといて短期間で気持ちの整理をするべきだ。けど、仕事に私情は持ち込むな。迷惑をかけるだけだ。」
「仕事は今度辞めます。元々その気だったので…」
「それならちょうどいいかもしれん。
この際、自分の気の許せる場所で気持ちの整理に励め。恐らくだが、実家に一旦帰るのも手だろう。」
「そうしてみます。」
「今日はこの辺にしとくか。お前の精神を壊すのは俺が嫌だしな。また、聞きたいことあるなら聞いてこい。教えてやるよ。」
「ありがとうございます。」
そして、俺は家に帰った。
何をする気に慣れなかった。
だからその夜はそのまま眠りについた。
次の日の朝俺はインターホンの音で目が覚めた。
眠い目をこすりながらドアを押し開ける。
「朝早くすみませんね。立花さん。」
そこにはあの相談を受けた警察官だった。
「何ですか?あの件については自分で何とかしましたから。もういいですって。」
「いや。今回は違います。お話をお聞かせ願います。」
「何のですか?」
正直僕の闇以外にこの人に話すようなことは無い。
「1家心中の事件です。あなたもご存知でしょう?あの火事の。」
「あぁ。でも、俺はあの家事とは何の関係もないだろ?」
「ほんとにそうですか?よく考えてください?」
「ほんとに分からないんですが。もしかして冷やかしですか?」
「そんな訳ないでしょう。あなたみたいに暇じゃないんですよ。」
イラッとした。皮肉かこいつ。
「ほんとに分からないですか?ニュース見てないんですか?」
「断片的にしか…普段テレビ見ないんで。朝とかは見ますけど、主にバラエティーですし。」
「なるほど。じゃあ話しますね。1家心中事件の"赤森"さん1家についてお話伺いたいんです。」
「えっ…赤森さん達に何か…?」
「だから、1家心中で赤森さん達が亡くなったんですよ。」
「はっ…?」
何だよ。昨日から…これが泣きっ面に蜂って奴か。せっかく…自分の悩みについて解決したのに…
どこまで俺は追い詰められるんだよ。
「とにかく署にご同行お願いします。もしかして、何か用事でも?」
「いや、分かりました。行きます。その代わり事件について話を聞かせてもらえますか?」
「こちらにも守秘義務はあるので、話せる範囲でならお話しましょう。」
「では、少し待っていてくださいますか?寝起きで少し用意だけしたいんです。中で待っていてくださっても構わないから。」
「分かりました。でも、私たちはここで待っています。用意が終わったら声を掛けてください。」
そして、俺はドアを閉めた。
あの、「父親が居ない」の父親は"赤星さん"だったのか?だとしたら、赤星さんの1家が心中したのか…
やばい…このまま死んでしまいたい。
自分から何もかもが奪われていく。
とにかく話を聞けば…
そう考えながら用意を終えた。
「あの…用意出来ました。」
「では、行きましょうか。」
何か、世界が暗く見える。
俺は無気力になっていた……
署につくと、前にも見たあの部屋に入った。
「今回はお悔やみ申し上げます。」
「……」
「ではまず、今回の件についてどこまでご存知かだけ聞いておきます。」
「火事によって1家心中が行われた。そして、父親はいない。母親、娘、息子。の3人が無くなった。4人写った写真と、手紙が見つかった。ここまでです。」
「そこまで知ってて名前を知らないなんてかなり珍しい。まぁ、ありがとうございます!
では、この事件が起こった心当たりはありますか?」
「いや、そもそも赤星さん。いや、赤星 光(あかほし らいと)さんとは連絡が急に取れなくなりまして…あまり情報がないんです。」
「赤星さんの家族さんとは…?例えば…赤星 花さんとか」
「いえ…あくまでもサークルの後輩ってだけで
先輩としての赤星さんで接してたので。その後家族とは連絡をとってないんです。」
「そうですか…」
「あの…俺もその家に行ってみたいです。」
「分かりました。後で行きましょう。」
「その前にもう少し話して貰えると助かります。聞きたいことがあれば聞いてください?」
「僕と赤星さんが仲良くなったのは同じキラキラネーム仲間だったからです。
今までキラキラネームで差別を受けてきた。
けど、赤星さんだけは平等に接してくれた。
俺の人生を華々しく飾ってくれたんだ。」
少々強めでかつ、過去のことを話すように、語る。
「なるほど…その様子だと赤星 光さんが自殺した件についてもご存知のようですね。」
「あぁ…昨日知ったよ。けど、知りたくなかったよ。
また、あって仲良く話したかった。それだけなのに。何で俺こんな事にばっかなるんだよ。
ろくな事が無い。いっその事死んでしまいたい。」
「同じ過ちを繰り返すんですか?1度立ち直った人生。終わりを迎えたはずの人生。けど、今ここであなたは生きている。誰か立ち直させた人がいるんですか?」
「あぁ。少年、少女が居てな。あんたらも知ってるだろ。俺が自殺未遂を犯した事チクったやつだよ。」
「えっと…何を仰っておられる?その事について知らせに来てくれたのはサラリーマンの方ですよ。痴漢で取り締まろうとした時、彼が俺に言ってきたんだよ。」
「はっ…?」
「あと、ひとつ聞きたいことがあるのですが…
あなた…こないだベンチで誰かと話しておられましたか?」
「あぁ…そうだよ。話していたのはあの少女と少年だぞ?」
「そうなんですか?俺にはあなたが独り言を仰っているようにしか見えなかったのですが。」
「はっ…?お前には見えてないのか?」
「そう言われましても俺にはお前が独り言を喋っているようにしか…なぁ…その人たちはなんで名前だ?」
「教えてはくれなかったが。それぞれ少年Aと少女Aって名乗ってたな。」
「どんな格好だ?」
「落ち着いた制服で、一般的なJKって感じのが、少女。
少年は前髪が少し長くて目を覆ってる。あと、大人っぽい見た目で、こっちも普通の学生って感じ。」
「少し待っていてもらえますか?」
「あぁ…」
すると、警官が立ち去り少ししたらビニールに入れられた写真を見せられた。
そこには4人の家族が映っていた。
そして、そこにはあの少女と少年が映っていた。
「何だこの写真」
「これは、あの火事の家から見つかったものです。」
「えっ…ちょっと待て…はっ?」
「その方々にあったのはいつですか?」
「今日含めたら2日前です。」
「また、会ったとしたらその時に何を話したのか連絡もらえますか?」
「わ…わかった。」
「ところで、あの家行きますか?」
「行く。この際何か分かるかもしれない。」
「分かりました。そうなればこちらとしても助かりますし。」
「あと、後で行くと言いましたが、明日に朝からまたあの家の操作があるのでその時にご一緒しましょう。俺はこの事件の担当者だ。何とかします。」
「分かった」
「なぁ…赤星さんは何故、自殺したんだ…?」
「詳しくは知りませんが…確か名前に関していじめを受けてたらしいんですよ。恐らくそれが原因だと思いますよ?」
「そうか…ありがとう。他に質問することあんのか?」
「いえ、途中で音信不通だと、これ以上はあまり意味が無いように感じます。他情報があるのであればまた別ですが。一旦こちらからの質問はこれで終わります。」
「事件の現場では何が見つかったんだ?」
「先程見せた写真と手紙くらいですね…まだ。」
「俺ももう聞くことは無い。」
「では、一旦ここでお返しいたします。」
そして、俺は署を出た。
そして、あの公園に行き1人考え込んだ。
アイツらは俺以外には見えていないのか…?
そもそもアイツらは心中の時には、無くなっていたのか?
そこで、あることに気づく。
「双子の遺体が発見された。」
そうか、アイツらだったのか…
だとしたら、名前を名乗らなかったのも
バレたくなかった。
だからあえて、赤星のイニシャルA
双子で同じ苗字。だから、2人ともおなじAを名乗ったのか。
だとしても、なぜあいつらは俺を助けたんだ?
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