第3話心機一転

「ここは安全な場所です。あなたの敵はいません。だから、正直に打ち明けてください。

 あなたの心の闇を払いたいんです。」

「……」

 警察など信用出来ない。

 闇を払う?何も知らないくせに。

 闇の道理も知らないで払っても根本は変わんねぇよ。

「どうせ…どうにも変わらないんだし。」

「どうしてそう言い切れるのですか?」

「1回相談に来たのに事件が起こってないやらなんやら言って何にもしようとしなかった連中に何を話せと?どうせ関わりたくない。だから何もしない。話を聞くだけ。それで終わりだろ?

だったらもういいだろ。もう俺の好きなようにさせてくれれば。」

「そうは言っても…自殺志願者をこのままほっぽり出せませんよ…」

「大丈夫だって…もう話すことはしたんだからいいだろ?」ざっと椅子を引き立ち上がる。

「ですけど、実際の中身を聞かないと…」

「もういいよ。信用してない奴に相談するほど

 俺の口は安くねぇ。」

「仕方ない。本当に大丈夫なんですね?」

「あぁ…」

「では、お返し致します。署の入口まで付き添うので、少しお待ちください。」

「チッ」

 俺は子供じゃねぇのによ、付き添うなんて。

 別に行きに道ぐらい覚えたっつうのに。

「では、行きましょうか。」

 階段を下りる。その時、やけに疲れきった警察集団とすれ違った。

「まだ、若いのにな…可哀想に。」

「カップルか?それとも兄弟だったのか?」

「いや、双子だろ。」

「それにしても心中はやりすぎだよな。」

「本当にな。」

「まぁ、俺たちは未然に防げることは防ぐが…民事には関われない。だから、家庭のトラブルはその場で何とか解決してもらう以外方法がない。」

「そうだよな。よし、これからは見回ったりする時もちゃんと挨拶とかで、人々との仲を深めよう!」

「ハハ。それが最善なのかもな!」

 そんな会話が聞こえてきた…

 警察も大変なんだな。

 けど、未然に防げるものは出来れば防いでもらいたい。なんせ、国を守り、見張る職業なのだから。

そんな間にあの入口が見えてきた。

「私たちはここまでで。今日はお疲れ様でした。また、何かありましたら頼ってくださいね!ひとりで抱え込まずに。」

「あぁ…気が向いたらな…そっちも頑張れよ。じゃあ。」

"ひとりで抱え込むな" "時には誰かを頼れ"

そんな事は分かってる。だからそうしてきたのに何もしなかったのはお前らではないか。

警察をまだ信頼していた。だから、真っ先にお前らに相談しに行った。けど何もしなかった。

 それが、俺のマイナス思考に火をつけたのではないか!そして、俺は自殺を志願した。

 お前らだって、俺の心の闇の大きな要因なんだよ。そう思いながら、静かに怒った。

「ふざけたこと抜かしやがって…」

 そう口にした時…

「元気になった?お兄さん。」

「ったく。お前を庇ったがために酷い目にあったわ。」

そう、少女と少年の声が聞こえた。

 振り向くと、あの2人がそこにいた。

「お前らわざわざ待っていたのか…」

 今はまだ、とても暖かいとはまだ言えないくらいの気温。むしろまだ少し冷える。

近くの学校からぶかぶかの制服姿で、保護者と歩く中学生が見える。そして、その親子のそばには

綺麗な菜の花が咲き誇っていた。

「言ったでしょ?話聞くって、どうせ警察にろくな事話さなかったでしょ!」

「そうだな。警察に向かって、自殺未遂のおじさんが、ここに居ます。"ついで"に助けてあげて。なんて叫びやがって。誰がついでじゃ!ボケ!」

 すると、隣に居た少年が俺の手を強く握り

「あんまウチの妹に、キツく言わんでくれるか?そもそもお前の為だろ。その為にわざわざ痴漢の冤罪解決してやったんだ。感謝の一言もいえねぇのかよ。ホントクズだな。」

「チッ」

「舌打ちか。子供かよ。」

「……」

 もうどうだっていい。今日はもう帰って明日また自殺を実行しよう。

「また、自殺?いい加減にしなよ。話は聞くって。とりあえず近くの公園行こ?」

少女はこちらに軽快な口調で言ってくる。さっきからこいつに心を読まれて気味が悪い…体がむず痒くなるし、背中が少し冷える。

「信用無いやつには話さん。」そう答えると、少年が

「冤罪助けてもらっておいて、まだ信用ないの?これ以上何すればいいってんだよ。欲張りな奴だな。」

 そう半笑いで問いかけてくる。

「分かったよ。話すよ。かりは確かにあるし、恩はきっちり返さんといけんからな。」

「よっしゃ!!」

「恩はこの後、自販機で私たちにジュース奢ってね!それと、あなたの闇を打ち明けること!」

「チッ。分かったよ。買ってやるよ。」

「うお!?マジかよ!良いとこあんじゃん!」

 そして、自販機で飲み物を奢ったあと公園のベンチに俺たちは座る。

「はぁ…疲れた。それで?どこから話せばいい?」

「うーむ、どうしょうか。」

「てか、まず名前教えろよ!俺の名前は立花 空(たちばな すかい。」

「名前?」

 彼女は少年と顔を見合わせたあと、少し口ごもった。

「とりあえず少女Aって呼んで!」

「じゃあ、俺は少年Aで。」

「何だ。ちゃんとしたのは?」

「嫌だ…口にしたくない。」

「まぁ、いいか。んで、どこから話すんだよ」

「とりあえず最初から!」

「マジか、最初からだと長くなるぞ?」

少年は口を挟む

「そこは短くまとめてみろよ。大人だろ?義務教育でもやったろ。」

「はいはい。」

「まぁ、この季節で、悩みと聞いたら少しは察するだろうが、俺は新社会人。そして、仕事についての悩みを持ってる。

 幸い、仕事は案外すぐに決まったんだ。

 給料も他に比べたら少しばかり多めで、福利厚生もなかなかだった。環境自体はそこまで悪いとは思っていなかった。ただ……」

「ただ……?」

「差別を受けたんだよ。」

「どうして?」

「お前はなんとも思わなかったのか?俺の名前だよ。たちばな すかい。」

「あぁ…キラキラネームね。」

「やめろ。その言葉をもう言うな。」

「いいから!それでそれで?」

「俺は名前のせいで仕事仲間から避けられた。

 喋ってくれない。他にもいろいろあるけど。キリがねぇからこれだけな。

 この名前のせいで俺の人生は変わった。

 低学年ぐらいだと、呑気なもんで周りもかっこいいとか何とか言ってた。けど、高学年になればなるほど、変な奴っていじめられた。それがズルズル社会の場にまで続いてきたってだけ。

 人間関係の本とか買って必死に解決に奔走はした。けど、無理なもんは無理だったな。

 その中で、あるニュースが流れたんだ。

そこで、 俺の中で、何かが切れた。

 確か…1家心中…だっ」俺がそうの言葉を口にした時、食い気味に少年が、

「お前はそれを見てどう思った。なにがお前をその気にさせた?」

「そんな方法もあるんだなって。今まで自分は生きる前提で頑張ってきた。けど、一向に身は結ばれない。そんな時に、この世から消える事を選んだニュースを見た。そして、考えた。俺も消えてみようかなって。」 

「そうか。けど、それが必ずしも最善って事は無いかもな。」

 少年がそう言うと少女も続けて

「変えていけるものは変えていこ!」

「そうはしたいけど、実際どうしろってんだ。

 社会は甘くねぇぞ」

強い口調でそう返してみると、

「まず、ひとつ言えることは会社を辞めてしまうこと。言わば、天職に転職てな。はは!」

 少年が、少しふざけて言った。

「あんた、それ面白いと思ってんの?」

少女が蔑んだ目で彼を見る。

「や、やめろよ。そんな目で見るの…」

 彼は少し焦った口調でそう言った。

 そして、

「とにかく、転職する勇気がお前にはあんのかって事実際する気あんの?」

「人間関係を目をつむれば…辞める必要は無いと思ってる。」

「いや、そうじゃなく、辞める気あんのかって事聞いてんの。」

「………」

 俺はそう聞かれた瞬間口ごもってしまった。

 やはり、人間関係以外は文句のつけ所のないほどいい会社なだけに、捨てきれない。そう思ってしまう。

 捨てた方がいい?そんな事はわかってる。

「勇気は無いのか。じゃあ環境を変えるしかないな。」

「そんなこと出来んのか?」

「知らん。それくらい自分のことなんだから考えてみろ。」

「無責任だな。」

「話は聞くと言ったが、解決法の提示までは言ってないからな。」

「はぁ…」

 俺はため息とともに自分の時計を覗く。

 そこには9時と書かれていた。

「もうそろそろ帰った方が良いんじゃねぇのか?」

「大丈夫。」

「保護者心配すんじゃねぇの?」

「俺らに保護者なんか居ねぇんだよ」

 少年はとても声を荒げた。

 そして、ジュースの缶を持ち去りどこかへ走って行ってしまった。

ただ、彼のコンクリートを踏み込む音と

 彼を呼び止める少女の

「ちょっと〜」

 という一言が響いた。

また、俺は人を傷つけた。そして、嫌われた。

「また、何も出来なかった。ごめんよ、先輩。」


次の日

「家事によって亡くなった家族は3人家族。そして父親はいなかったという事が判明しました。」

「いやぁー、衝撃的な事実ですよね。シングルマザーだと色々な可能性が考えられます。」

「そうですよね。そんな方々を助けていくのも我らの責務なのかもしれないです。」

 ふざけたことを言いやがって。

 一体お前らに何ができると?人の不幸、スキャンダルみたいなを追って、人の人生を潰してきた人達が何を思うんだよ。

その立派な調査力と発言力で差別について訴えてくれれば楽なのに。

 そんな事を朝から考える。

そして、いつものように会社に行こうと

 扉を開いた。その時

「やぁ、おはよう。」

 あの二人がいた。

「何故、ここに!?怖いぞ。」

「あの後公演に向かってたら、あんたが歩いてたからさあたし達も追いかけた。そしたら、アンタの家に辿り着いたってわけ。」

「そうそう。その通り。」

 少年が少女に相槌をうつ。

そして、彼女が口を開く。

「あたし達で、考えてみたんだけど、辞めるのが嫌なんだったら異動願い出してみたら?そしたら、お望み通り辞めなくて済むし。」

「ううん……」

 俺は少し考え込んだあと、

「やってみるか。」

 と返事をした。

「これ、紙と封筒。」

「こんなものまで用意してくれていたのか?

 ほんと世話を焼いてすまんな。」

 俺は恐縮する。

「いいんだよ。ほっとけねぇんだよ。」

「そうだよ、見殺しになんて出来ないの。」

「優しいヤツらだな。」

俺の目は少し潤んでいた。人とのコミュニケーションましてや人の優しさに触れたのは大学生ぶりだった。

「なになに?泣いてんじゃん。」

「泣かなくてもいいのに。」

2人は笑いながら言ってきた。

俺にはこの2人の笑顔が過去の信頼していたあの人にそっくりに見えた。 その人は唯一名前関係なく話しかけてくれる人だった。だからその妻とも俺は仲が良かった。とても優しかった。

俺は、ふと時計に目をやる

「うわ、やべ!遅刻する。」

 乗り過ごせない電車があと6分後に来る。

「俺の為に色々ありがとうな!また話そうぜ!

 お前らも学校とか遅刻しないようにな!じゃあ

 」

 俺は走りながら言葉を口から飛ばした。

その後何とか電車に乗り、会社に行った。

そして、いつも通り朝一番大きな挨拶をかました。けど、誰にも返事は貰えなかった。

今日は異動届けを仕事の合間に書いた。

また、せっかく異動するのだから。と

いつもより仕事に精を出した。

 そしたら、2日分位の量が終わったところで定時を迎えた。

「あの、これどうぞ。」

 俺は上司に渡した。上司は無言でその封筒に目を落とす。

「あぁ、ついにお前もか。」

お前も?他にも誰かいたのか?そう疑問が湧いた。

「人間関係…か?原因。」

「そうですよ。」

「やっぱりか…ごめんな。けど、上から言われてるんだ。 」

「何をですか?」

「余計な問題に口を突っ込むな。ってな

 多分だけど、どこの部署に行っても変わらんと思うぞ。この会社は腐ってるからな。

 まぁ、何かあったらそうだん聞くぞ!

 メンタルケア位はしてやれるから!」

「はい…ありがとうございます!」

 上司にはこんな1面があったとは…

 悪かったと少し反省した。

 そして、俺はある決断をした。

「上司。俺この会社辞めます。」

「それがいいと思う。転職活動は俺も一役買ってやる。知り合いとかに声をかけて、いい会社探してやるよ。会社の責任を背負う責務は上司にあると思うしな。」

上司ってこんなに人格者だったのか。

俺は上司があの人と重なった。

 この優しさに包まれる感じ。

 俺はこの日から上司は憧れだったあの人のような慕う存在になった。

 

 

 

 

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