第13話 ヒドイ奴らと翻弄される者
「おー。只今戻ったぞ、幻崎くぅん。ほれ、佐久務クンの戦闘データ」
「チッ…お前は一体何がしたいんだ?斎炎に佐久務の秘密を少し教えて見逃すとは」
カースティス本拠の椅子に座り、舌打ちをしながら立壁を見下ろす幻崎。
「なんでって………うーむ、肉を熟成させるようなもんだよ。今の佐久務クンはまだまだ未熟だしね。」
「ふざけるな!第4課に回収される前に奪い取る絶好の好機だったのだぞ!」
「何の為に神獣を全部使い、
椅子から立ち上がり、怒りを向けるも一笑に付される。
「ハッ。道具なんていくら使ってもまた作れるだろ。問題は[コネクトリガー]のコピーと蓄えた戦力の大半を使っても駄目だったってことだ。……………今までは趣味半分で付き合ってたが…もう俺たちの欲しかった十分技術は[保存]したし、後ろめたいことしなくても良いって訳。第一、戦力にもならん奴らと組む価値はない。もう撤退させてもらうわ。」
そう言って立壁はため息をつきながら外に出ようと歩く。
だが、
「お前の正体を広められても良いのか!」
「はぁ~あ。振られたから写真ばらまく奴みたいなこと言うなよー。」
さらに大きなため息をつき、歩みを止めた。
「じゃ、最後の選別な!上手くやり過ごして馴染めよ![テレポート]!」
「まさか!!」
そうニコッと笑って、第2課に幻崎を飛ばした。
「なっ…!不味い![ ]!」
そうして服を第2課のものへと着替え、黒いロングコートは陰に沈め、仮初めの姿に魂を鎮めて変える。
「立壁就夜…覚えておけ!!」
(負け惜しみはダメ!)
「!?」
(概念魔法・概念適応:テレパシー。ホント便利だよねー、こういうの)
(ま、どうしたら生着替え中にお仲間に鉢合わせずに済むかを教えてあげるから、頑張ってね!)
そして幻崎…いや、第2課の誰かの脳内に響くゲラゲラ声。
この挑発に対し、第2課の裏切り者はただ唇を噛み締めることしか出来なかった。
「……………………」
(じゃ!お前がどんな嘘をついて作戦会議に参加するか楽しみにしてるよ~!)
◇
「ん………んん…ここは?」
「あ、やっと起きたね人殺し!」
「どれくらい寝てたと思うの?」
…医務室か。
どうやら俺は「燃焼」の強化魔法の反動で寝込んでいたそうだ。
で、佐久務と重奏が何故か俺のプリンを勝手に食ってやがる…
「くッ………返せよ、俺のプリン」
「人殺しは人肉でも食っとけ!」
「寝坊殺人鬼さんには要らないよね?」
………何か、妙だ。なんか発言がかみ合わないというか。
その時。
「人殺し!来道さんが呼んでたぞ!」
「鹿納!お前まで!?」
何かおかしいと感じつつも、グイっとスーツの襟を引っ張る後輩に連れられて会議室に向かう。
でも。
「よく来たな!人殺し!殺人鬼カースティスの情報!」
「…あ、情報源は殺してしまいました………」
そういえば…あの時の雰囲気に流されて聞くの忘れてしまっていた!
でも…あの顔見るに、佐久務やられて口割るようなやつではな―――
「ドアホ無能人殺し!殺せ殺殺し殺さ殺殺ぉ!!」
「すみませんー!!雷はやめてくだぁぁっ!!」
雷の剣を振り下ろす来道さん!お願いですから勘弁してくだささっ―――
「わぁぁぁぁっ!!!」
「フィッ!?」
「やべっ!隠せ!!」
え…夢だったのか?いや、あいつらは確かに医務室で俺のプリンを盗み食いしている。
「まさか…これがループ物か?」
「なーに言ってんだ斎炎さん。人殺しがよく言うぜ」
「これ絶対ループだ!逃げたいよー!!」
俺がベッドから這い出ようとしたとき、重奏の軽い手刀が佐久務の脳天を捉える。
「あてっ!?」
「はぁ…先輩への言葉使いに気を付けよ?っで…ちょいちょい…どうしたの?斎炎さん」
「あれ?重奏は俺のことを人殺しとか言わないの?」
「はぇ?よくわかんないな。 取り敢えず、斎炎さんはここに来た瞬間ぶっ倒れたから医務室に連れてきたよ。で、佐久務君が「治癒」を使えるから置いといたんだけど、泣きっぱなしでシーツぐしょぐしょにして治癒どころじゃないから慰めているって訳。」
「ほぇーーー………」
そう疲れからかポケーっとしていたら
「やっぱり!斎炎さんが無理して人殺ししたら毎回こうなる!」
勢いよくドアノブを開けて鹿納が来やがった。
で、直ぐに俺を見つめて、
「心も体も疲労いっぱい。まーた同情できそうな敵と戦ったんでしょ?」
「え?鹿納さんって精神科医の面もあったの?」
「いや?記憶に[潜入]しただけよ。」
なんて口をすぼめて話す鹿納は、斎炎のやつれた顔を盗撮し、音速の早業で[哀れ!ブラック魔導課の名誉社畜その9!]とタイトルをつけファンクラブに投稿した。
「ま、これからカースティスの本拠を叩かなきゃいけないからね。とっととメンタル治してレッツ作戦会議!」
「はい……………」
こんな頼りない斎炎を見て、一同はそのギャップで蛙化現象を起こしそうになりましたとさ。
◇
~「仮想仮執行領域」内にて~
「建仁~。なんかもうちょっと足運びでも鍛えたほうがいいんじゃね?近接限定の模擬戦でも俺に負けてんじゃん。」
「チクショー![創成]はセコいぞ!なんだよ!人間の動きじゃねぇじゃん!」
「強化系の重ね掛けさ。それに、お前の固有魔法[格闘家]にもそう言うのあるんじゃない?漫画で見たけど…蟷螂拳?やら…作画もめっちゃかっこ良かった借頸……うーむ、お前がそこまで行けるのかなぁ………いや、漫画技パクッて戦う後輩なんて見たくない……。」
「…いや、「創成」も本棚探したらどこにでもあるだろ…………それに、弱いからって後輩呼びは、やめようぜ…。お前より1年くらいセンパイだぞ…。」
確かに現実のごく一部の達人しか使えない武術も、漫画の創作武術も再現出来たりする。
だが、それは自分はできて当然といえるほどの自信過剰の思い込みの力によるもの。
現に未熟さと佐久務への劣等感を募らせている建仁晃には無理な話だ。
「はぁ、気を取り直して練習だ!ほらほら!香崎も来いよ!2対1なら案外やれるかもよ?」
「クゥーッ!創造の時は可愛かったってのに創成になってからはイキリ無双系主人公になりやがって!おい香崎!一緒に佐久務ぶちのめそうぜ!」
「………うん!」
そう、香崎もまた、自分の無力さを痛感して佐久務らに稽古をつけてもらっていた。
今度こそは、カースティスの掃討メンバーに選ばれるべく。
無論、数日の練習だけでは到底地力は伸びないことは誰でも知っている。
それでも、彼は諦めずに目的のため自分を伸ばす。
「おお!いい雰囲気だな!よし行くぞ!「
「だから無双は雰囲気悪くするだぁァァァっ!!」
すっかり調子に乗った佐久務によって、二人は魔道具使用時間限界までお手玉にされましたとさ。
◇
「………香崎君のこと、気になるの?朱音ちゃん。」
「師匠…」
夜、月と星明かりがきらめき普段よりも一層明るい今日、新島朱音は物思いに外でふけっていた。
「……私って、一体何してきたかなって。…ただ皆に引っ張られて、自分は安全な所からこそこそと手伝うことしか出来ないの、嫌になっちゃう。」
「今回もそう。香崎君に関しても、あの子を見つけてここに引き入れたことだけ。魔法の特訓も、あの子の心を融かすのだって、何一つできなかった。」
斎炎さん達によって、絶望の淵から心を融かして明るくなった佐久務芽生という前例が、彼女の頭の中によぎっていた。
香崎沈武。
彼の経歴は謎に包まれている。
彼の親族が、無差別に人をさらうカースティスに何故狙われたのか。
何故、幼い妹と二人で逃れることができたのか。
謎も数多残されている。
だが、そんなことは関係ない。
どのような経歴を辿ってきても、彼は理不尽によって人生の道を断たれかけた。
未然に防げず、守れなかったからこそ、トラウマを消し、普通の生活を歩ませてやらねばならない。
「………大丈夫だよ。
「……確かに。ありがとう、詩音さん。すこーし楽になった。」
「フフフ、なら良し!」
そうは言いつつ、確かにそうは思っているものの、新島朱音の心の中で引っかかる違和感はまだ消えていなかった。
◇
~一日後~
「さて…皆集まったようだな。 今回は斎炎が持ち寄った情報をもとにカースティスの掃討を行おうと思う。………あまりにも少なすぎるがな。」
来道が、少々イラついた目つきで斎炎を睨む。
「………すみません。本当にすみませんでした。幹部と思わしき襲撃者を捕縛したものの、情報も取らずに殺してしまいました。」
シュン、と小さくなる斎炎に対して、佐久務はふてくされた表情をし、鹿納はやれやれ、と呆れる始末。
「ま、説教の時間は無駄だ。幹部が何人いるか知らんが、犯罪組織故、そこまで人員は多くないはずだ。現に斎炎にけしかけたのは5体の神獣、しかもレアな適応型に得体の知れない魔道具のコピー。
また神獣を合成される前に叩けば後は数人の戦闘員しかいないだろう、というのが私の推測だ。」
「それなら、僕にやらせてくれませんかねぇ。大技は無いとは言え、研究所の狭い空間内の戦いなら即死級の「潜入」の魔法を最大限生かせる。それに、確実にメンバーに入れる実力はあるはずです。」
まだメンバー予定すら話していないのに、鹿納が名乗りを上げる。
「ああ。良いこと言うな、私もそう思っていた。生憎本業の警護活動もあるから、最低限の人員で行きたいのでね。 長時間、距離の高速移動可能な私か斎炎はどちらか見回りに回さねばならない。………先の霧嶺散華?のテロがあったからな。」
「そこで、メンバーだが…佐久務、斎炎、鹿納の3人。佐久務は大技で内部から荒らし、隙を見て鹿納が止め。幻崎は斎炎の実力、その他二人の殲滅力を評価し、時間稼ぎは絶体に可能だと判断し、斎炎に任せる。」
………やっぱり、そう簡単に事は運ばない。
香崎は苦虫を嚙み潰したような表情しかできなかった。
「………なんで…なんで俺はダメなんですか!」
『香崎…』
だけど、もうこれ以上の屈辱は受けきれない。
カースティスの掃討がもう始まろうとしているのだ。
自分の手で引導を渡さねば、という心が香崎を動かした。
「すまない。何回も言うが、実力不足だ。悪く思わないでくれ。君が復讐を望むのはわかるが、命を無駄に散らすだけだ。」
「俺が何もできずカースティスが消え去るくらいなら!俺は無理やりついてきて幻崎の喉元に一矢報いて死んでやる!!」
『香崎君!!』
皆、名前を呼んで止めることしかできなかった。
どうしても自分で復讐したい事なんてほぼ皆分かっている。
その先には何も無くても、終えた瞬間の良い気分は今でもぞっとするほど残る。
でも…
「ダメ!君が死んだら妹はどうするの!!」
「………」
重奏詩音だけは、本気で止めようとする。
「いや…魔導高専の妹だけじゃない………今生きている皆や、君のために今まで苦悩してきた朱音ちゃんの思いはどこに行くの!!」
「だから…君は今は生きることだけ考えればいいの!そしていつか自分と同じ様な思いをした子を助けた時、絶対に、絶対に復讐なんかより充実するから!!」
「………な綺麗事なんて言うな!あんたもあの泣いた佐久務見てきただろ!」
「!?」
「いいや!絶対に叶う!だって、佐久務君だって明日を見つけ出せたんだ!」
「ああ!そりゃあそうよ!なんせ凡夫の俺なんかと違ってそうしん………………いや、………ごめん。」
「香崎……………」
そうして香崎は佐久務に一瞥して、自分の
「………僕が教えるのが下手だったから、こうなったんだ。」
「佐久務君、そんな悲観しなくてもいい。なんせ残酷だが…人には才能の限界があるんだ。輪の中に入ったら、それが比較されることでより顕著に表面化なる。香崎君には、決定的に才能が足りていなかったんだ。残酷なほどにね。」
しょぼくれる佐久務に、鹿納が寄り添ってなだめる。
「………決まりだな。以上の3人は休息を取り、調子を整え次第カースティスの掃討を行ってくれ。」
『はい。』
◇
「ハッハッハ!!幻崎の奴ホント演技上手いな!! 今度金払って役者でもさせてやろうかな!」
「ま、こちとら計画通り………最低でも来道にはしばらく眠ってもらう。そうだな。木更道のねぇちゃん。」
「はぁ。随分悪趣味なこと……で、その呼び名は止めて?………何人連れてくの?」
「勿論全員さ。あの来道を死亡ギリギリまで削るんだ。過剰戦力は当たり前だろ?」
いよいよ、カースティスの掃討が幕を開ける。
いよいよ、裏切り者が動き始める。
そして…この一連の騒動の後、佐久務にも、新島にも、斎炎にも。
第2課全員の絶望の夜の、帳が降り始める。
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