第11話 二つの心


佐久務と翼の襲撃者との戦闘の裏で。


自身の体を目の前の敵を滅ぼすために最適化し、ケンタウロスを思わせる風貌となった合成神獣。

対するは自身の足から炎を噴出し、機動力でスピードの差を覆さんと構える斎炎。


ビルやアパートなどはまるで豆腐のように壊しながら詰める神獣を、斎炎は無数の火球を以てして隙を作らんと放つ。

「放炎弾!」

「Ksiyoooooooo!!!」

だが、それは逆三角形状に変質させた剛腕の一振りですべてかき消され、逆に空中の斎炎に鉄球のごとく丸く硬く固めた鉄拳が振り下ろされる。


だが、斎炎は手からも炎を噴出し、皮一枚で難を逃れる。

そのまま空高くへ逃れる斎炎を追うように背中に5対の腕を生やして纏めて、神獣も飛翔する。


「チッ…スピードパワー防御共に負けてるのはつらいな…」

そう。神獣たちは統合されるにあたりより高濃度の力、より高濃度の魂を持つにあたり、自身の体を変化させるまで進化していた。


斎炎の独り言を聞く耳など持たない神獣は、僅か数秒で斎炎の足元まで迫る。

その刹那。斎炎は一つの技に使用するほどの炎を背中から噴出して下方向に転換し、足には燃え盛る魔力を纏いカウンターの一撃を放つ!


流星の炎尾ステイル・フレイム!」

神獣の顔面に確かにめり込んだ一撃をも無視して、神獣は間合いを侵略し、斎炎の足を掴み地面へと投げつける!


「Syaaaaaaaa!!!」

「カッ…カフッ…」

地面に勢いよく叩きつけられ、血の塊を吐き出す斎炎。だが、そんな暇を与えず、残像を描いて勢い良く落下する神獣。

「Styiiiiiiiiii!!!」

合成された神獣の両の剛拳が地面をヒビ割り、沈める。

対する斎炎は自身の足から炎を噴出させて難を逃れる。

だがしかし、空中の精密さを欠いた挙動を突き、四つ足での音速を超える突進は確かに斎炎を捉えた。


「グッ……!」

それは斎炎を吐血させ、何棟化の廃ビルを貫き吹き飛ばす。

それに、壁にめり込んだ瞬間には敵も眼前に迫っていた。


鎮座すわる太陽!」

穿滅の皇陽サンブレイク!!」


腹の痛みを無視して詠唱を行い、太陽の一撃を神獣に向けて放つ。

だが、魔力の練度も詠唱も足りない一撃は、神獣を遥か遠くに飛ばすも傷をつけるには至らない。


「ハァ…ハァ……正面からは不利か…グフッ!」

もはや魔導課が総力を挙げて討たなければならないレベルまで、この合成神獣は到達していた。

此処まで、斎炎が一方的にダメージを追い、神獣は未だ無傷。

斎炎は久方ぶりに味わう敗北の緊張を味わっていた。


だが、


「信念も無い兵器には負けるわけにはいかないよなぁ……フゥ…寝込むのを覚悟してでも行く!」

深呼吸を吐いた瞬間、斎炎の雰囲気―――いや、最早オーラとも言えるレベルにまで圧が増す。


そう、今まではこの戦いの後、カースティス本拠で幻崎魂徳を殺すまでが斎炎の今回の目的だったが、それを今、目の前の強大な兵器神獣をこれ以上の損害無しで消し去る覚悟に切り替える。


「でも、辛い話だが、やらなければな。」

佐久務との特訓で使った高等技術ズル

斎炎の練度不足のため、本来は自身に一切ダメージが行かない状況内でしか使わない手段。

来道を超えるスピード、パワーを発揮する代わりに、制御しきれない魔力が体を焼く諸刃の剣。

推定使用可能時間は今の体力を考えると30秒。だが、「もしも佐久務敗北」に備えて20秒で切っておかなければ、重い負荷で禄に動けず全滅も免れない。


「強化概念:燃焼。」

斎炎の角膜は赤く、結膜は漆黒に染まる。髪は紅蓮の赤に完全に染まり、その姿は太陽を連想させる。

瞬間、廃ビルを砕きながら斎炎が紅い軌跡を描いて飛び出る。


音速を遥かに超えた速度で向かう神獣の反応を超え、殴り吹き飛ばす顔面を粉砕する


回転しながら先の速度より早く吹き飛ぶ神獣より早く回り込み、空へと打ち上げる膝を蹴り折る


そして、1手先の勝利の準備を行うため、紅く燃え盛る炎で神獣の四肢を焼き切る。


訪れる勝利の時。地上の被害を最小限にする準備は完了している。高度1000メートル以上吹き飛んでもなお速度を一切減衰させず吹き飛ぶ神獣。それに向け、体内に漲る高濃度、高練度の魔力を絞り出すことで、無詠唱で最大規模の必殺を放つ。


黎明をも包み滅する威なる皇光の陽インテメディペラ:ルインキューション!」


瞬間、打ち出された太陽は神獣を包み上り、雲を貫く。

そして、極光と共に爆炎を齎し、滅した先の景色には雲一つない青空のみが広がっていた。





「ハァ……ハァ……俺もまだまだ研鑽が足りないようだな…ブッ!」

戦闘で追った怪我、13秒とはいえ本来使えば寝込むほどの切り札。

この二つの所為で斎炎の足は生まれたての小鹿の様に震えていた。

だが、それでも佐久務に加勢するために鞭を打つ。悪を滅するために自分を突き動かす。

曲げれない信念、もう二度と曲げたく無い信念だから。




「佐久務クンは優勢だぞ?それに斎炎焼佳、これからの芽生ちゃんについて少し話をしよう。」

「……………………はえ?」

佐久務のもとへ行かせない為か、はたまた見かねたのか。その声を聞いた斎炎は安心からか、しりもちを豪快に突き、へばりこむ。


声の主は―――立壁就夜。

しかし、敵意の欠片も感じない。

斎炎は無為に強者を敵に回すことは無謀と判断し、有益な情報を得るため、時間稼ぎのため話を聞くことにした。


「……………………その装置は!」

「ああ、これね。先程の融合の魔道具は見たってわけか。これは融合の…言いにく。

コネクトリガーとでも呼んでくれ。これが本物。模造品とは出力も桁違いだぞ?」


それを見た斎炎は驚愕の表情で、

「な…第4課を敵に回してカースティスについたのか!?」と尋ねるも、一笑に付される。

「いいや。恩返しの交流さ。創神計画ではあいつらの魂研究でお世話になったからな。で、今まで霧嶺キュンがコソコソ行ってきたのを、俺が引き継いだって訳。過労死寸前だけどな」

「……………フン。まあいい。」

自分の全く知らない膨大な裏があることを感じた斎炎は、カースティスに関する質問を諦めることにした。


「…ところで、なぜ貴様が?佐久務を狙いに…来たわけでもなさそうだが。」

「ちょっとね。佐久務クンの観察さ。………いや、お前には伝えておいたほうがいいか。ハァ、うすうす気づいているだろ?」

「何のことだ?急に一人称が俺に変わったりするがな」



「とぼけるなよ斎炎。お前は創神計画の概要をざっくりとはいえ知っているのだ。ただ神の力を降ろすのではなく、別の方法で神に至るようにな。」

大勢の人間の魂を圧縮してあの液体器に注ぎ注射集約し、人の作り手たる神に至らす「降神計画」…勿論、器は耐えきれず爆発若しくは暴走神獣し、完全なる失敗に終わった。 そこまでは知っているだろう。」

「ああ。それで第4班の信頼も地に落ちたと思ったがな。」


「そこでだ。魂魄強度、身体強度双方を上げて尚且つ、


「まさか…佐久務のあの力は…!」

「そうさ、[創世神の本質]のみを佐久務クンに埋め込み、いつか自由に権能を行使できるようになる。その為に第4班だけではない。カースティスやも技術を持ち寄り、完璧な器を作成するに至った。」


「有り得ない!その権能は人の手にある筈が無い!創世の力に人間が耐えきれるはずがない!そして佐久務は未だ[創成]だぞ!!」

「は~おいおい。と言っただろ?」


「最初の疑問…第1課にいたお前なら知っている筈だ。若くして第1課の班長にして、人の身にして天上に至る全能の少女。の権能を完全に行使できる者にして、ルールや理など存在しない者を。そいつの魔法紋章魂の欠片を同意のもと一画[強奪]し、研究の末生まれた創世を限界まで[退化]させたのが[創造]だ。だが…能力の進化と共にお前の言う通り負荷が増す。」


「そこでだ。同じ人間の魂に宿る2つの魔法が、片方の進化に共鳴するとしたら?……………もしも、同じ人間に2つの魂を用意出来たら?……謎に思わなかったか?何故[創造]のときから治癒能力が存在していたか。記憶がぼやけていたか。」

「まさか…佐久務は!」








「ま、ほぼ偶然のようなものだがな。身体強化の拷問の途中に二重人格を生み出した奴…まさか、一時的に進化して、魂まで[創造]して、人格それぞれが魂を持つとはな。」


「そこでだ。魂を人間と神の両方の側面を担わせるために、許容を超えた力での自壊を防ぐために。そして、優しさを受け継いだ人間面の方の魂に[治癒]の魔法を継承し、思惑通り霧嶺戦で[創成]と共に進化したわけだ。」


を感じ取った斎炎は、唇をただ嚙みしめることしかできなかった。



「此処まで説明したら本題に入っていいだろう。俺以外の計画メンバーが望むのは、創世まで到達したときに、二重人格を統合してもらう事だ邪魔な人間性を消し去る。その後は先の少女に魂ごと与えることで、にさせる。」

「ただ、俺はそれを望まない。」


いつもの明るい表情は一変、立壁は重苦しい表情で語りだす。

「ただ、問題もあってな。」


「先ほども言っただろ?優しさを受け継いだ方の魂と。 二重人格の裏を返せば…あくまでカースティスの研究データからの推理に過ぎないが、あいつのもう片方の魂は憎しみを受け継いでいる…いや、押し付けられた理不尽拷問に対する憎しみ、か。」


「で、俺は佐久務クンには、人間の側面を強調させて人格を統合させてほしい。それが、俺の「創神」だ。……………それに、お前たち第2課も協力してくれ。佐久務クンを守ると思ってな。」


ようやく反動からある程度回復した斎炎は、悲しい顔で話す立壁就夜を睨み、言い放つ。


「下らん。佐久務は人間のまま生きる。そして、あいつが計画の事など何も考えずに済むようにするのが俺達の望みだ。」

「それでいい。あいつの心を癒すのは…お前ら第2課にしか出来ないからな。」


「それに、あいつを甘やかしたり、厳しくしすぎたりするなよ?[創世]前に魂を統合させたら計画は進まないし、………いずれもう片方の攻撃的な人格神の側面に乗っ取られたりするからな!」

そして、立壁はニヤリと笑って立ち去ろうとする。……………奥に何かの謀略を秘め、そして、これから起きる不穏なを知って。




「もし、佐久務クンが絶望の淵に落ちたら、見捨てずに、最後まで寄り添ってやれよ!」



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