第10話 「カースティス」の尖兵


「あ、ああ…頭痛い…だれかー助けてー…。」

先ほどの楽しいパーティから一転、来道の酒鍋イッキにより強制的に打ち切られ、霧嶺散華の最後の謎についての対策会議が幕を開ける。


ちなみに佐久務は、来道にゲロキスをぶちかまそうとしたものの、来道自身の身体を雷に変化させられ失敗+感電。その後べろべろ状態で会議に参加させるためには行かないので雷で脳を無理矢理活性化させられ悶絶というわけ。


「う…ウップ。あー、コホン。…うげっ、オッ…」

「…霧嶺は最後に僕たちの目の前で死んだが、何故か別にもう一人いた。防犯カメラも全て故障。その主導者変装者と霧模倣者は魔導管理庁によって名簿とデータが全て保管されている魔導課の中には絶対に居なく、データが乏しい犯罪集団の中にいる。それでいいっすか?来道さん。」


無茶なイッキのせいで満足に会議もできないアホ来道に呆れながら、鹿納が代弁する。

「ウッ…すまないね。カッ…目星はあらかた付いている…」

「カースティスだ。」


カースティス。それは創神計画の始まる前、[降神計画]の失敗とともに、第4課から分離、独立した非合法の魔法組織。

無情な実験を多数行い、なお飽き足らず戦力を拡大している一方。

彼らの本拠地は岡山県であり、周りの市民を無差別に拉致、実験を行い命を奪うので本来で言えば即滅ぼされても良い筈だ。

だが、そんな彼らが生き残ってきたのはひとえに「強い」から。

[神獣]を多数所持、しかもコントロールまで可能という恐ろしい技術、それに加えてトップの「幻崎 魂徳げんざき ごんとく」は魔導課の班長にも匹敵するレベルであり、仮に頭を狩っても手足神獣が暴れまわり、二次災害が拡大する。

このことからカースティスを完全に消すには岡山県を滅ぼす必要があるとまで言われており、無論そのようなことをして混乱を起こせば他国に突かれ大戦争。見て見ぬふりというのが現状。


「カースティス……!」

いつもは冷静な香崎が、今回はブルブルと震える手で拳を握っている。


「……………………」

「香崎君…」

皆、重苦しい表情をしながら香崎を見つめる。だが、来道だけは違った。


「最大規模の犯罪組織なら変装や模倣の魔導士を釣れる確率は高い。…吞み込めたのならば、ここからの指標を言おう。」


「………今回は視察程度で行く。中部地方の警護をする私たちが仕事をこなしながらも派遣できるのはほんの少数だ。斎炎焼佳、佐久務芽生の二人で調査してきてくれ。最悪戦闘も構わんが、寝込むほどの怪我は負うな。」


「……………………」

皆、やはりそうかというような態度で眺める。

香崎も沈黙を貫いていた。


「…この2名を…、霧嶺散華クラスの敵が複数いるということですか?」

僕は分かりきっていた質問をしていた。でも、拳を握って悔しそうにしている香崎君にも任務のチャンスを与えてあげたかった。


「そうだ。実力で霧嶺を超えたりする者もいれば、半ば自爆特攻で斎炎すらも機能不全にする輩もいないとは言えない。だから治癒能力を持つ君と十分な実力を持つ斎炎のバディで調査してほしい。」

「香崎君は……すまない。実力不足だ。」


来道さんの宣告を皆が受け取った瞬間、香崎君はバン!と勢いよく扉を開けて出て行ってしまった。


「ちょっ…!」

僕は香崎君を止めようとしたが、重奏さんに手で阻まれ、見失ってしまった。


「……………………分かりきっていたことだ。佐久務、斎炎。一時間後に用意をして出発してくれ。」

「……………………」 「はい。」


斎炎さんの返事により、この会議は終了し、任務の開始へのカウントダウンが始まった。


だが、


「(こっち来て)」

そう重奏さんに手招きされ、ついていくことにした。






「そういえば、佐久務君は知らなかったね。香崎君が魔導課に志願した理由。」

「…うん。」

「……………………香崎君、13歳の時、両親や親族もろとも悪い奴に騙されて拉致されて、その後の大金を用いた人質交換でも騙されて、全員カースティスの実験台にされて、住む場所も無くなったんだ。」

「それで、ずっとさまよってて、2か月前かな、弱り切った妹を抱えてここにきてさ。ずっと私たちに泣きついていたよ。

早く!殺されてしまうから って。だから…暫く世間には内緒でずっと保護してさ。でも…それからまだ、心が溶け切っていないんだ。」

「なんでって、彼の心の奥底で、多分今でもカースティスへの怨嗟が渦巻いているからだと思うよ。」

「だから…似たような境遇を持つ君に、あの子の心を完全に開いてほしい。そして、あの子の最高の理解者になってほしい。ごめん…頼みすぎだけど、カースティスをなくして欲しい。新島ちゃんも…無理して力を求めなくてもいいように。」


…そうだったのか。何か有ることは分かっていたが、ここまでとは。

だからこそ。


「ありがとう。詩音さん。お陰でやりやすくなった!カースティスは悪い奴ら、僕がやらなきゃ誰がやるってね!」

佐久務の顔は、にこやかで自信と決意に満ち溢れていた。


「フフッ。いい顔しているじゃない!じゃ!任務、頑張ってきてね!」





「……………………魔導課第2課がここを狙うだろう。」

「はぁ…おいおい。手は打ってあるのか?それに、俺の[時間圧縮]と[模倣コピー]に感謝しろよ!」

「…手はもう最初から打ってある。挨拶程度だがな。お前も来るか?」

そう言って、カースティスのロングコートの男―――幻崎魂徳は椅子から立ち上がり、暗い研究所を後にした。

手にはあのメビウスの輪が入った装置のコピー品が握られている―――


「………………………感謝の心とか無いんか?」

「…………フン。どうせいつか裏切るお前には無い。」





「foo~気持ちいいー!ねぇ、もっと窓開けてよ!」

「はぁ…なんで俺がお前の準備子守しなきゃいけないんだよ…。」


お洒落なレストラン、服屋などが並び、キレイな緑が伸びる広い道路。

農村の衰退分、都市に多くの流入した人が発展の礎となり、経済成長が絶えず好調。


バナナミルクをチューチューしながら目を輝かせて景色を見る佐久務、何故か自分の準備もしない佐久務にキレる斎炎の凸凹過ぎるコンビを乗せた車が走る。


「カースティスね…なんか如何にも「フッフッフ…招かれざる者どもよ、ようこそわが組織へ…」とか言いそうだなぁ。」

「ふん、能天気にもほどがある。ダイナマイトで爆死するのがオチだな。」


「なぁ~に、僕たちバディならだいじょーぶ。」と佐久務はドヤりながらまた窓の外に顔を出し、手で風を感じようとした時。



グサッ、と手の甲に鳥らしき羽が刺さり、

「いっっぎゃァァァ!!」

と発狂しながらシートを転げまわる始末。


「ふん、言わんこっちゃ無い。次からは気を引き締めていくんだな。」

「む…ちょっと待て、なんで攻撃受けているんだ?」


「もう岡山に入っているぞ?ここはカースティスの下で繁栄している都市だ。と、言っても他地域と何ら人権等に変化はないけどな。家賃が安くて福祉が多少いいだけで……拉致らない保証があるだけだ。」

…まーた始まった。霧嶺戦と同じく説明不足。シャコパンチでも顔面にかましてやりたいが、車が大爆発YOU DEADになりかねないのでここは舌打ちでイラつきを飛ばす。


「で?対策は?」

「無い。兵器に乗っているわけではない。」


佐久務は冷や汗をダラダラと垂れ流しながら訪ねる。

「どう…するの?」

「回避に徹する。」

「は?」と苛立ちと怒りに満ちた視線を斎炎に向けるも、車の天井をゆがませるほどの羽が数本、さらに突き刺さる。


「……………………爆発オチ?」

「ふん、奴らの目的は誘導に決まっているだろ。お前を狙っているだろうしな。」

呆れながらも取り敢えず安心させる斎炎の言葉を聞いて、佐久務の殺意は鳴りを潜めた。


「だが、こちらとて車を大破させスクラップにみすみすさせるほどお人よしではない。人気のないところで降りるぞ。」

「了解!なら―――」


「何!佐久務!?」 「かぎ爪、ピストル:創造!バリア:創成!」


窓からかぎ爪をかけて飛び降り、足元にバリアを引いて滑走しながら上の敵を狙う!


……………………まぁ、縄は一本の羽であっけなく切れました。


「ああああああ!!!!」と地面を転がる佐久務。

「これじゃあ佐久務じゃなくて策無だな…」と呆れる名付け親斎炎焼佳

だが、構っている暇などない。相手は佐久務ではなくこちらに羽を依然飛ばし続ける。

「チィィ!新車は15年は持たないと困るんだよ!」

ハンドルを切り限界すれすれの急回転を切る斎炎。だが、羽は躱しきれない上に他の車にも微かにかする。

最早市民をかばいながら…と覚悟するもつかの間、どこからか見覚えのある人影が写る。



「バッタ!衝撃インパルス!回転!:創成!」

「錐揉みトライ!」


そう佐久務が跳躍し、上から羽を飛ばす敵を両手で羽交い絞めにし、錐もみしながら廃ビル、廃アパート地帯に突っ込んでいった。


「…ふん、俺もあんな便利な魔法欲しかったな。」

そう言いながら斎炎は車を降り、身体から炎を噴出しながら佐久務のもとへと急ぐ。








「君が佐久務芽生…そして、今来たのは斎炎焼佳か…」

3階建ての廃アパートの屋上から佐久務らを見下ろして声をかける襲撃者。

白交じりの肩まで掛かる黒髪の、まだギリ成人まではいかないだろう風貌の子、

その背中には、赤と黄色の大きな羽がいくつも合わさり出来た大きな翼が生えていた。


…その横には、歪な二足歩行の神獣が5体、おそらく適応型。

だが、何故かぐったりしていて全く動かない。

そして、その前に立つは黒コートを着て、仮面をつけた男。


「…佐久務。数の差が激しい。大技で一気に焼き払うぞ。」

「だめだ。あの怪しいやつ、原理は知らないけど、…!」


そう、佐久務はあの時羽までホールドして頭を打ち付けようとしたものの、あの男に触れられた途端、発動していた魔法もすべて解除されてこのようになったと言う。



「まさか、第二課が私たちを狙うとはね、だが魂の叡智たる大切な研究所を傷つける訳にはいかん。ここで決着をつけるとしよう。」

ボイスチェンジャーを通して、黒コートの男が話しかける。


「国家の守護者たる我らが、害を放置するとでも?…会話の時間も無駄だ。死ね。」

そう言い、かなり大規模の炎を屋上に放つも、黒コートの男が片手をかざすだけで簡単に消え去る。


「そう慌てるな。まだ我らの因縁は始まって間もない。ここはひとつ、歓迎の印として、我らが手札を切るとしよう。」

男の手には…謎の箱、それもソケットとメビウスの輪がついている。


融合ユナイト


それを神獣の一匹に差し込むと、5匹の神獣たちは一つに集まり、各々の肥大化した部位は全て集約した一つの身体に集まって筋肉質に引き締まる。


「では、さようなら。。」

男が去る瞬間、

まるで人間の形をした謎の集合体神獣は、斎炎を視野に定め音速はあろうかというスピードでただ突進する。


「佐久務!俺はこいつをやるからお前はあいつを―――


そう言い残し、斎炎と神獣はアパートを何棟も貫き、消えていった。

残されたのは翼を羽ばたかせる襲撃者と佐久務のみ。


「ギブアップする?さっき乱入なかったら負けていたよね?」

「そうですか。私が縄を切ったとき追撃してたらあなたが死んでましたよ?」

分かり切った話だが、先の児戯ハッタリが通じるわけがない。


互いを包む静寂。

だが、相手より下に居るとはいささか不利なものだ。

先に攻撃を放つは佐久務の方。


道を照らし行く光威!テラス・ライツゴウズ

だがそれは、立体的な高速飛行によって難なく交わされる。


「遅い!空襲スカイストライク!」

直前にナイフで防いだものの、剛翼によりアパートの2倍はあろう高さの空中にはじき出される佐久務。

それだけでは終わらない。襲撃者は牽制の羽を飛ばし、鋭利なくちばしを生やして空中の佐久務を狙う。


だが、佐久務も伊達に修羅場を潜り抜けてきたわけではない。

「霧散」で貫かせ、その飛行の隙を銃で狙う。


「風。銃。創成!」 「勝利を貫く弾丸ウィンズ・ピストル!」


佐久務は暴風を吹き荒らす弾丸を敵に向けて撃つ。

だが、佐久務と斎炎を狙う敵もこの程度なわけがない。急激に加速、方向転換して弾丸を外し、羽を数枚散らすにか至らない。


そしてまたお互いの攻防が振出しに戻る。


「流石、創神計画の申し子。器用貧乏ではなく、器用万能。一筋縄ではいかないようですね。」


「おいおい…翼だと思ったら[鳥]の強化…いや、概念魔法か…想定外だな。」


「ええ。私もある程度改造された身でしてね。お陰で魔法の格も上がりもっと自由に行使できるようになったのですよ。」


そうにこやかに話す名も語らぬ襲撃者。

緊張からか、額に一筋の冷や汗を流す佐久務。

互いの攻防は、さらに過熱する―――



「まあ、お前がどんな者であろうと、牢屋に入れて反省させるまでだ!」















――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


※時間圧縮(概念魔法)

今回立壁が見せた

能力は、Aの場所からBの動作を行い、Cの場所へ行くににかかる時間、それが何時間であろうとも、時間のみを切り取って1秒に圧縮する魔法。

だが、その間にに魔力が絡む行為を行うと圧縮不可。


未来と過去を観測出来ないとこのような扱い方はできないのだが―――

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