第7話 ジョーカーが齎すは今日の希望と明日の絶望


(チっ…こんな位置で見つかったんかよ…やばいな。)

バイクのミラーには黒い靄が写っていた。

まだ石川から福井に入ったばっかりで見つかるとはな…第2課の皆はまだ本部で様子見だろう。

僕が今なすべきことは、開けた場所に霧嶺を誘導し、そこで戦うことで周辺に被害を出さないかつ霧嶺の気をそらし、第2課の皆が包囲するための時間稼ぎだ。

ここで攻撃でも受けようものならバイクは大爆発僕は重症だ。


…少し危ないがもっと狭い道なら霧嶺もうかつに手を出せない可能性がある。

そもそもあいつも魔導課政府側の人間だ。子供襲って住宅街に被害!とかいう報道をされるのはのは望まないだろう。


ここであえて住宅街に入る。ここなら霧嶺もうかつに攻撃できないのを生かし、スマホの地図アプリで場所を探して見つける!


「させる訳無いでしょう。この頓智機め。」

充電穴に入る黒い物。まさか―――


その瞬間、スマホが発火して壊れ、右手に少し火傷が入る。

あの野郎、ほんの少しの霧も自在に素早く操作できるってか…?


そして集中力を割かれ、バイクは分かれ道のど真ん中に今にも突き刺さろうとしている…!

「おいおい!!創造!」

ハンドルを思い切り右に切り、両足からナイフの刃を生やし壁を蹴り火花立てながら滑走する。

だが…


「捕まえましたよ!家出少年!!」

「名前で呼べや負け犬がぁ!」


左腕をつかむは霧嶺の上半身。下半身分は霧散して今にも僕の口に向かっていく。

揺れるバイク、今にも隙間から体内に入りそうな黒い霧、思い切りハンドルを握っている所為か血が滲む火傷した右手。


…圧倒的不利。このままだとまた内臓がズタボロになる。

何か…案を…時間を稼がねば…


「おい霧嶺ぇ!このまま事故ったらお前も逮捕だぞ!」

「フッフッフ…《《あれ》》が成功しているなら大丈夫なんですよ!」

「はぁ!?」


とりあえず…霧嶺は魔導管理庁のことを恐れていないのか?

いや…計画が政府主導で行われているならいくらでも揉み消しできるってことか。

確実にわからない以上、霧嶺がどんな手市民を利用を使っても迂闊には手を出せない。


…決めた。


そう覚悟し、アクセルを血が滴る右手で全力で捻る。住宅に突っ込んでいかないよう、全力でバイクを操作する。



「おらぁ!!360度布留擦路賭留弩理風賭フルスロットルドリフトォォ!!!」

「バカなァァァ!!!ふざけるなぁ!!」


両側1車線の道路で繰り出したドリフトは、霧嶺の体を粉微塵にしたと同時に、タイヤのゴムをほとんどすり減らした。

「もってあと数キロメートルか…上等!」

そう再びバイクのアクセルをひねり、時速70以上の速度で住宅街を駆けていく。



「茶番はお終いだぁ!!クソガキぃィ!!」


そう霧嶺が怒り心頭で叫ぶと同時、バイクからボスン、と嫌な音が鳴る。


「おいおい…ついに寿命か?」

あのドリフトの最中、霧嶺は自身の靄を少しだけバイクの中枢に入れていたのだ。

当然、燃え尽きたり吹き飛ばされたりしたものもある。だが、一粒一粒に魔力をまとわせ、質量を増しマフラーからの排気をせき止めた。


…なら!

今にも倒れこみそうなバイクを支点にして、魔力を纏い、跳躍する。

それは実に高度30メートルはあろうかというくらいに。


「…廃工場!」

その高さから目的地を発見したものの、如何せんここからすぐにたどり着くような距離ではない。しかも、佐久務は今更気づいた、空中戦は霧嶺の独壇場ということに。


「判断力ゼロ!お終いです!!!」

「あ…勘弁してぇ…」


その瞬間、何か見えないものに弾かれ、回転しながら廃工場の天井へと弾き出された。


「…手伝わなくてもいいと言ったのに…!」

そう、霧嶺の悔しそうな声だけが聞こえ、天井から廃工場へと突っ込んでいった。



   ◇



「佐久務君のGPS反応が消失!!?」

「なに!?」

予想外の事態に慌てる大人組の二人斎炎と重奏

「いや…襲撃される側なんだから当たり前でしょ…」

大人組の低能さに呆れる子供組二人建仁と新島

「ハッハッハ!それくらい想定内ってものよ!」

酒臭い息をまき散らしながら笑うジジイ一人来道三門

何やらどでかい風呂敷を広げて語る。


「お前ら!全員これに包まれ!私が運ぶ!」

「「え!?」」

驚く皆を置いてきぼりにする雷の如き早業で風呂敷にくるみ、担いで第2課のドアを破る。

その速度は雷と同等クラス。しかも、本人はそのスピードに完全に適応して危なげなく走る。

…風呂敷の中は大事故だが。


はぁいはぁい!ふこぉいはへかへんふぃへ早い早い!少しは手加減して!!」

「しゅうしょ~ひゃん!はんへさいへんへんはいはけふつうはんへすか重奏ちゃん!なんで斎炎センパイは普通なんだ!?」

せっかくの顔イケメンと美女を台無しにしながら抗議する大人二名重奏と鹿納。正直この場では小学生よりうっるさい。


「はぁ…滑稽だな。写真でも撮ってやろうか?」

(コクっ…)

そう返すのは風圧相手でも一切顔がゆがまない斎炎焼佳と香崎くん。

すぅるひ!へんはいふぁっかふるい!ズルい!先輩らばっかずるい!

「ふん。これがクールキャラ補正というものだ。お前らみたいなギャグキャラにはこれがお似合いだ。」

「さぁひぃふぇぇふぇんぅぅぅ!!!」

斎炎の傲慢な一言に一同イラつくも、彼らは風圧で顔が歪むため何も言い返せない。




「おいお前ら!今から飛び上がって佐久務君を見つけるから踏ん張れよ!」

「え…?」

「?先輩…?」


「しっかり掴んだか?」

「ナァ…ウァ…」

「あれ?斎炎さーん。どうかしました?」


「せーの!!トゥ!!」

「アア…ハァ…」


人を6人も背負っているものの、来道は一瞬にして高度300メートルまで上がる。

そして、持ち前の洞察力ですぐさまドリフトの痕跡と乗り捨てられたバイクを見つける。

「落ちるぞ!覚悟しとけよ!」

「…オネガイ……オロシて……ヒトリデイケルカラァァァ!!」


斎炎の顔が絶望に染まる…

そう、彼には絶叫耐性が一切と言っていいほどなかったのだ…

バン!と雷が轟く音とともに、宙を蹴って斜め下へと駆ける。

まさにその姿、軌跡共に一切の寸分狂わぬ落雷。

「トゥ!!」

「ヤッバラガルナィサブラァギゾードゥ!!?!?」


[憧れの先輩が狂乱化 その4を投稿しました]


 

   ◇




「はぁ…きつぅ!」

「まだまだぁ!もっと細かく!もっと広くゥ!!」

攻撃の手を止めない霧嶺相手に苦戦する佐久務。

だが、少しづつ、その攻撃の避け方を見抜いていった。


(鼻栓、耳栓を作って詰めておけば多少は霧に突っ込んでも余裕。そして開けた場所且つ壁のある廃工場に連れ込みカウンター戦法で追い込む!)


あえて逃げる方向を微調整し、霧嶺を廃工場の中に誘う。

(愚かなガキだ。あまり良い方法ではないが…そこに入ったら一巻の終わりだ。)



片鱗霧散へんりんむさん!」

創造クリエーション:ナイフ。」

霧嶺が右足の形にもやを集めて蹴りを入れるものの、ナイフでそれを切り裂く。

確実に霧嶺の攻撃をつぶしていき、魔力切れを起こして粘り勝ち。それも佐久務の作戦のうちの一つだ。

だが、霧嶺のほうが戦闘経験も上、そう簡単に都合よく事は進まない。


「集霧。」

「な!」

佐久務に引っ付いた一粒が宙を舞う靄全てを引き寄せ、人の形をすぐさま形成する。

「バアァ!!」

そのベストポジションから放たれる完璧な一撃。


「ガァアッ!!」

その発徑は佐久務の鳩尾を貫き、廃工場の壁を貫いて吹き飛ばした。

その土煙から、報復と言わんばかりの筋が飛ぶ。


「フン…多少はやるようですねぇ。」

その銃弾を霧嶺は直前で躱したものの、コメカミから少し流血する。

そしてゆっくりと煙の中に進んでいくのであった―――――


(意識しなければ霧散できないようだな。なら…勝機は増えた!)



    ◇



そして、霧嶺が廃工場の中に入っていったころ。

少し遅れて第2班のメンバー全員が廃工場を包囲した。

万が一、佐久務の身に何かあったら直ちに救い出せるように。

だが、こちらでもそう簡単に計画通りいくわけでもなかった。


[グルルルル…]

「おい…何かいないか?」

何かの唸り声。

それは一秒経つごとに二つ、三つとだんだん増えていく。


そう、正義側魔道課に立つものが決して行ってはならない手段。

[グルルルル…]


人間を犠牲にした、【神獣】の大量生産。ざっと40~50匹はあろうかと。それが、全方位から佐久務や霧嶺に向かって歩を進める。


「総員!4方の壁を囲むように配置!私以外の大人組は一面一人!子供組は3人一面だ!絶対に工場に入らせるな!」

一瞬の時間で判断を下す来道。それを聞いて、1秒もかからず配置する第2課総員。


「初キルもらい♪ 【潜入!】」

鹿納土生は移動する時に魔法を発動させ、すれ違いざまに神獣の内部に容易く侵入し手を突っ込み、次々と内臓を引っこ抜いて倒していく。


「うへぇ…グロ注意くらい最初に言ってよぅ…」

「…はいダダンがダン!」

そういつもから一変しドスの利いた声を言って地面を蹴る重奏詩音。彼女の魔法【響音奏きょうねそう】を乗せて響き渡る音により、ある神獣は動きを封じられ、また別のは脆弱なに響き壊れ、塵となった。


「どこの馬の骨か…下らん。」

「――平線に沈む陽光フェルットサン。」

もとからの圧倒的実力差のせいか、神獣特攻となる能力を一切持たない斎炎だが、薄い横一文字の炎が次々と神獣を真っ二つに切ってゆく。


「オラッ!もういっちょカウンター一発!」

ギリギリまで神獣を寄せつけ、口が開いたところにカウンターの一撃を浴びせ、大ダメージを与えていく建仁あきら。彼の魔法【格闘家】というかなり特殊な強化系魔法により、動体視力や脳の回路が常人よりも発達しているおかげで、寸勁ワンインチパンチも楽々打てる。


「チョット!何これ!倒しきれないじゃない!香崎君も手伝ってよ!」

「え~…はぁ…いいよ」


新島朱音の魔法【呪詛】。何かを媒介にして、それに触れた相手にデバフを付与するという能力。今回は影に触れた神獣相手に、攻撃力と防御ダウンの能力を適応させた。

ただ、それだけでは到底倒す分には至らないので、【鎮魂】で押さえつけた神獣の魂を木偶の坊にさせる。




「おーっと。防御薄いとこあるじゃねぇか!」

「!!? 噓でしょ…」


人声が聞こえる。

その正体にうすうす感づいて新島と香崎は振り向くものの、すでに時遅く、間合いは0になっていた。


「壁上げ」

「「うぁぁぁっ!?」」


侵入者が地面に手をついた瞬間、足元からせりあがる何かに突き飛ばされた二人は、無防備な状態で空中に突き飛ばされた。

だが、侵入者をやすやす許すほど魔導課も甘くない。「壁上げ」の直後に間合いを蛇の様に縫う建仁。

「おいおい、第2課の奴らは命は惜しくねぇのかぁ?」

(この位置・・・いける!)

体勢を瞬発的に立て直した敵は続けざまに建仁の顔面目掛けてジャブを放つ。

建仁はそれを完璧に見切り、クロスカウンターを以てして迎え撃つ―――



「なぁんだぁぁっ!?」

「…まあ俺には効かねぇよっ。」



敵は自分の皮膚の下に「防壁バリア」を張り、建仁の攻撃を無効化しつつ、自分が放った拳の風圧だけソニックブームで吹き飛ばして見せたのだ。


「《《今回は》》お前ら殺す気ないんだわ。そこで這い蹲ってな。」


ヒュン


風がピリつく―――

空気が痺れる―――

土は焼け焦げ―――

「いきなり最高戦力かよぉ!」


刀は万物を滅する雷と化す。

白滅びゃくめつ


謎の物質を空気を切るが如く分断する一閃。

そう、来道班長がフリーになっていたのは、侵入者を見越してのことだった。

霧嶺ナンバー4も預かり知らぬところで事は大きくなっているに違いないという来道の判断だ。


「立壁就夜…ナンバー3のお前がここまで成長していたとはな」

「あぶなぇなぁ。バリアで逸らしてなかったら死んでいたぞ。」

だが…ここまでの実力者とまみえるのは想定外であった。


「殲め―――」

「遅い!」


再び刀を振り上げる来道より早く刺さる蹴り。その一撃は、音速をも優にしのぐ一発。それは、蹴り。


「老兵はただ消え去るのみ、だッ!!」

(ウォ!?ここまで―――)


その一撃は、大地を抉りながら来道を遥か彼方へと吹き飛ばした。

描かれた曲線は、かつて木だったものも、沼だったものも、等しく土と泥で塗り替える―――


「あれ?これってまさかぁ…」


ビチッ、と大気が鳴る。

抉られた大地の跡に描かれた曲線。

―――これは、立壁が作ったものではなかった。



「私に挑むのは5年は早いぞ?若人わこうどが!」

「はっ…」


万卍滅まんめつ!」


 ただの移動で地形を変える力、オーラとして滲み出る絶大なる魔力。

 それ即ち強化系とエレメントの極致。それを乗せ、余波も出ぬほどに高密度に集約した一撃。

 それ即ち象形魔法の頂。それはもはや人間では視認はおろか感じることすらも不可能の一撃。


だが、



「やっててよかったリンボーダンスぅ!」

「はっはっ!どこまでも奇怪な奴め!」


立壁も人間離れした体幹でのリンボ姿勢ですれすれながらも躱す。

そう、周りの被害を顧みて放った一撃が仇となったのだ…


「ふぅ…お遊びも終いだ。[完璧なる四方超重防壁パーフェクト・クワッドバリア]。」

振り終わりの隙に来道に触れる。その瞬間、何十にも重なったバリアが彼に密着する。

 本来ならこんなものは全力の来道にとっては紙一枚と同じように断てるだろう。

 だが、刀を振るうことすら出来ない密閉空間。いくら強化系魔法を極めていても、

刀と象形による雷の集約を使わなければ、数段威力は下がる。

 

それでも、来道は2秒もせぬ内にバリアを力ずくで壊す。


「あーあ。逃がしてしもうたか。」

廃工場に入りかける立壁の背中を見て、来道はふぅ、と息を吐き、諦めとも楽観的ともいえる言葉を吐いた。




来道を振り切り、佐久務と霧嶺の戦いの最中へ入り込もうとする立壁。

だが、それを易々とさせる彼ら魔導第二課では無い―――



「夕焼けの炎弓。」

「概念適応:連鎖潜伏!」

「響いて届け![墜ち行く束縛の声]!」

 斎炎、鹿納、重奏の三人が、それぞれ廃工場の屋根、そして左右から


「そんな即興の技で俺を止めれると思ったか?[防壁]+[概念壁]+[凪壁]!」

最後の砦となる三人の攻撃をも、全て立壁は概念自体が異なる三種の防壁を自信を囲むドーム状に作り出してあっさり防いでみせた。


「じゃ!後はに俺についての話を聞いてくれよー! 穴熊。千日手。はい全壁!」

 短い詠唱の後、廃工場についに入った立壁はバリアを生成する。


「暁。」

遅れて斎炎が詠唱する。



穿滅の皇陽サンブレイク!」

 防壁を破るべく全力で放つ太陽の一撃も、壁に少し焦げ跡をつけたに留まった。

創神計画の一部を知っていた斎炎も、まさかここまでの相手が来るという予想外の出来事に苦虫を嚙み潰す。



「待てい!斎炎!」

そう言う来道の顔は、何故か佐久務の勝利を確信していた。




そして、これから来るについて思案を巡らせていた―――


















――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



※「沈魂」について

滅茶苦茶わかりずらかった沈魂の魔法ですが、今のところは「概念魔法」「魂を身体との接続から切り離すことで、完全に無防備にさせる(対神獣適正アリ)」で覚えていただければ結構です。

因みにまだまだ謎は多く残されています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る