第5話 バカを釣る作戦会議
~あの戦いから2日後~
「…!何か、いる…!」
「うーむうむ。ここが君のアジトねぇ~。…隠れてないで―――ケホッケホッ!もう少し掃除したらどうだ?」
「貴方は…!」
先の戦闘で火傷を負って命からがら逃げおおせた霧嶺を椅子に腰かけながら待っていたのは、ショートヘアーの好青年。彼は同じ魔導課第4課、研究担当の武闘派でナンバー3の男、
本来、彼は
それに加えて、霧嶺も知らない事実として、彼は山崎所長の
しかし、何が狙いか、立壁は肩入れしていた。
事実、霧嶺が佐久務たちを発見することができたのは、とある報告によるものだった。霧嶺は非戦闘員の物かと思っていたが、事実は立壁の異常な視野、視力により、猛スピードで走る
「君がここまでボロボロにされるとはな。どう?暁の魔法使いは?」
「…正直言って、私だけでは勝てません。」
霧嶺は口調こそ穏やかだったが、その顔は怒りと屈辱にまみれていた。
「いらないんだよなぁ。そういうのは。あれに勝てなくてどうやって奪還する気だ?お前の性格上魔紋の消費はしないだろうし。魔導研究庁にでも報告する気か?」
「………………」
魔導研究庁とは、最近の情勢を踏まえて内閣で編成された「魔導省」の下部組織の一つ。他には、「魔導管理庁」と呼ばれる魔法使いの勧誘、管理、育成を行う部署、「魔具研究、管理庁」と呼ばれる魔道具についての製造部署の合計3つで構成されている。
この計画は魔導研究庁と呼ばれる魔法の研究を主に推し進める部署が、その直轄組織である研究科の第4班に行わせているものである。
その一大プロジェクトを行うために、半分魔導管理庁を騙して、自衛のためにと国内有数の猛者たちを第4班に引き入れ、覆い隠すようにナンバー4以下の人員を研究員兼非常時の補佐戦闘員として招き入れた。
もしこれを魔導研究庁に伝えたならば、
つまり良くて助けは何も来ず、悪くて魔導研究庁の追求及び解体並びに計画の瓦解
(と霧嶺は考える。)
「じゃあ、なぜあなたは来たのですか…?」
「うーん。誤魔化せる限界。ってやつ?」
立壁は上の空で適当に理由を述べる。
「…まあいいでしょう。貴方が居れば、戦力として働いてもらわなくても作戦は容易に立案できますからね。」
「ま、足替わりの部下は全員命令して送り返したけどな。」
「はぁ!?」
怒りを見せる霧嶺に冷静に立壁は諭す。
「いやいや、仕方がないだろぉ?俺がお前らを率いて怪しい行動しています~って大っぴらに言うもんだぞ?」
「しかも今回俺は、北海道の第7班管轄エリアで発明された魔道具の研究のために派遣された研究員の護衛役として居るんだ。時間はかけれねぇ。……………まあ、明後日までなら、協力できるかもな。ま、お前の傷の治療と相談しながらやるか。」
「フフフ…十分!実に結構です!」
霧嶺からは先ほどまでの怒りが消え、とても醜い笑みを浮かべていた。
◇
魔導課第2課。
斎炎が提供した情報をもとに、彼らは第4課への対応に追われる―――
いや、奴らはあろうことか未だ医療室でぐったりしている佐久務芽生を釣っていた。
「重奏隊長!風向きの観察と窓の開閉完了しました!」
「ご苦労晃君! 火の用心は大丈夫か!?」
「大丈夫です!」
「詩音ちゃん!魔道具:
「ご苦労鹿納くん!倉庫に痕跡は残していないかい!?」
「もちろんだ!」
「詩音さん!秋刀魚と炭と七輪とジャンプ台の用意ができました!
「ご苦労朱音ちゃん!秋刀魚は!?」
「目黒の物です!」
「オーケィ!」
「装備完了! これより計画の最終段階に入る!さあ斎炎君!炎を!」
「やるかぁ!ドアホぉ!」
「ちぇ~。つまんないの。だが、智将は常に二手三手先を読むもの!」
そう言い懐からチャッカマンを出し、火をつける重奏。
勢いよくついた火はサンマをこんがりと焦がし、トロットロの油が
「匂いの発生を確認!風輪行きます!」
そう言って新島朱音は風の魔法が付与された魔道具である風輪を用いて医療室に風を送る。
「推定成功率約82%…さあ、どうなる…!」
その時。
「まさかまさかまさかぁ!僕への差し入れかぁ!」
体をくねくね唸らせて床を這いずり原理は謎だが進む佐久務。
その顔には、霧嶺にも負けぬほどの狂気の笑顔が張り付いていた…!
「さあ来い!佐久務君!」
「いただきまぁす!」
勢いよく跳躍し、秋刀魚を口に咥える佐久務。
ま、当然の如く速度は減衰して、炎燃え盛る七輪に胸から
「うわっちぃ!!ズモオオオオ!」
「緊急事態発生!対象に高熱エネルギー反応!」
「作戦失敗!直ちに冷却を~!」
「はぁ…何やってんだか。」
というわけで、再度医療室に go backする佐久務であった。
◇
佐久務は胸を冷やし終え、作戦メンバーは来道班長に雷が落ちるが如く説教され、
形はどうであれ、これで第2班のメンバーが全員揃うことになった。
「佐久務…お前も馬鹿するなよ…先の戦闘傷、完璧に治ったわけじゃないだろ?」
「いいや?もう全部治ってますよ?」
「…ところで、現在の最優先課題は、佐久務の保護とそれにあたっての霧嶺の処分。そうだな?皆よ。」
ようやく怒りが収まった来道班長が、話題を提示する。
「斎炎センパイの報告によれば霧嶺以上のメンバーは計画に参加してないらしいんですよー。」
「だから危険度的にはたいして高くないんじゃないっすかねぇ?」
そう鹿納が楽観的に考える。しかし来道班長は異を唱える。
「確かにそれは事実かもしれん。なんにしろ斎炎に挑んでまで佐久務君を取り返そうとしたからな。」
「だが、問題はそこではない。今回の件で、霧嶺もバカでは無いだろうから俺たちに天地がひっくり返っても勝てないことはわかる。だが、そうなったらあいつも作戦を立てるだろう。如何にして佐久務を孤立させるかってな。」
「そんな監視をされたら当然普段の任務にも支障が出る。」
「なら霧嶺を消しますか?」
簡単に口を開く鹿納に、斎炎はその口をつかみながら諭す。
「お前…身内の殺し合いなんてバレたら俺らも佐久務も皆おじゃんだろぉ?」
「計画」の進行は魔導研究庁直轄の第4班が極秘裏に行い、支援を受けている。霧嶺は先の戦闘で追った火傷と共に魔導管理庁に反逆の伝達をしていないことは
だが、霧嶺を殺したとなれば話は別、生存確認が取れなくなった次第魔導管理庁が奴の記録されている全ての活動を洗いざらい調べ、第2班の仕業とバレたが途端、第2班への責任追及と佐久務の存在が芋ずる式でバレ、創神計画バレで国内は激震する。
諸外国との小競り合いも加速する中、内情の不安定即ち戦争の火種。それだけは佐久務の秘密保持より優先して防ぐもの。
「フッフッフ…まさか君たち…あの茶番を忘れたわけじゃないだろうね!」
会話の均衡を破る重奏。この場の皆がまさか―――と口を開ける…
「そう!
超絶古典的な方法に、皆開いた口が閉まらない。
「えーと?詩音、ちゃん?そういうのはアホの子にしか効かないよ?」
「引っかかった僕がアホだというのか」
そう皆呆れながら話すのを見て、重奏も呆れ顔で説明する。
「とりあえず!ヘルメット!」
なにこれ…景色が黒っろ!?
「はい!
良く見えん!ってか意味ある?これ!?
「君が着ていた服!」
え?あのボロ布まだ捨てていないの?
「じゃじゃーん!私のお古バイク~!」
錆び錆びのぐっだぐだ。絶対に途中で分解して死ぬわ。
「これで研究所にまで戻るふりをする!その途中で襲われる!人気のないところへ誘う!佐久務君が倒す!以上!!」
「…な!佐久務はまだ霧嶺に手も足も出ないんだぞ!?無茶言うな!」
斎炎さんが珍しく仰天する。
そうだ。僕は確かに霧嶺相手に完敗した。
だが、この作戦も一理ある。僕には登録された個人情報一つも無いから、魔導管理庁にはそもそも認知されていない。魔法の痕跡が残っても隠し通せるって訳。
「大丈夫だ。もし佐久務君が危険な状況に陥ったならば、俺が助け出す。」
「それに、爺の勘、と言っても佐久務君にはまだ底がある気がする。」
「……………」
「…決まりね。」
来道さんの一声で、反対意見を述べていた斎炎さんも黙り、この作戦の実行が確定した。
細かい内容としては、明日の朝に僕が出発する。県道などの広い道は避け、可能な限り両側1車線の道を通りながら、中部地方の第2課から中国地方の第4課近辺まで走る。「霧散」で索敵能力が優れた霧嶺なら、第4課に辿り着く前には発見してくれるだろう。
その後に、廃工場や森などの開けた場所に移動して戦い、僕自身が霧嶺に勝つ。
「………………」
出来るのか…?僕に………。
確かに自分にはまだ隠された
「よし、明日に備え、今日の会議はもう終了だ。」
いや、覚悟を決めなければ。先の任務で初めて人間として成れたなら、この任務は成功して初めて第2課の班員となる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
解説コーナ!
立壁就夜、霧嶺散華、その他第4課の間でどんなすれ違いが起きてるのかが複雑すぎるのでサクッと解説!
まず、佐久務脱走は第4課トップの山崎理人、それにナンバー2と3の立壁就夜の間で計画が実行されました。
その後、表向きは佐久務を脱走者として連れ戻し、裏は佐久務の成長を画策して、第1話の冴島や霧嶺散華が送られてきました。
なんで立壁は佐久務奪還に参加しようとしているの?というと、彼はもともと北海道の第7課を訪れてする任務がありましたが、本人の独断で黙って道中の奪還メンバーに参加し、とある目的のため上司命令で第4課に霧嶺散華の部下を全員戻しました。
霧嶺本人にしてみれば、そのような大戦力を裏で行使していることが魔導管理庁にバレると、芋づる式で脱法と言える「創神計画」まで明らかにされるため、あまり好ましくは思っていない。
―――ただ、立壁は魔導管理庁にバレる事は絶対にないと言い切っていて…
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