第30話 世界の歪み

「教えてくれてありがとうお爺さん」


「わしゃもな、太陽を目指していた。北極星の元まで辿り着いた。じゃが、辿りつけなかった。ある機械が邪魔をしたからじゃ」


「ある機械?」


「奴の名は……」


「な、なに!」


 老人が機械の名前を言おうとした時、突然の地響きが襲いかかる。ルフはローを庇うようにしながら、外からの道を確保するために扉を開け、アランは背中につけている槍型の武器グロームを構える。エラーは老人側の壁に向かって吠え始めると、鉄の壁がいきなり破壊される。


 砂煙の中現れたのは三メートルの大型の鉄の悪魔こと機械。自分達と同じく二足歩行で歩いており、大きな一つの目の部分でルフ達を捉えている。大きな手がルフ達を襲おうとしてるのを見たエラーは、小さな身体を活かしてルフ達にタックルする形で外へと追い出したことにより、ルフ達は無事だが、ルフが起き上がりエラーを見た時には、機械の大きな手がエラーを捉え、グシャリと音を鳴らし鉄くずへと変えてしまった。


「何も振り返らずに進め! この機械はわしゃが引き受ける! 行くのじゃ! 北極星を目指せば自ずと太陽の道が開かれるじゃろう!」


 構えようとしたアランに向かって老人は声を張り上げて叫ぶ。先ほどまでよぼよぼとした老人の姿はなく、そこにいたのは歴戦の戦士とその相棒と思われるアランに似た青い光を放つ槍。アランの目は見開き、動けずにいた。


「アラン! 早く!」


 意識を逸らせたのはたった五秒。ルフの言葉に呼び起されたアランは奥歯を噛み締めて老人に背を向ければ、ルフ達と共に北極星を目指して走り出す。


「行けアラン。おぬし達に幸あれ」


 そう言い電力を最大限まであげれば、スイッチを押した。その日、大きなキノコ雲が打ちあがったのをノワル村の人々は見ていた。


 何も言わずに走り続けたルフ達。足が動かなくなったのは意外にもアランだった。


「アラン、どうしたんだ」


 自分よりも体力があるはずのアランの足が止まったことに不思議に思いながら、ルフは近づく。ベルも、ソフィアも、ローも心配そうに見つめていた。


「……あの槍、父さんしか持っていない」


 その言葉に四人は息を飲んだ。皆、アランが旅を続けていた理由は知っていた。だが、アランが何故父に会いたいのかは、ルフ以外知らない。


「オレ、最後の最後まで父さんに謝れなかった。嫌いと言ったのを謝りたかったのに。オレは、結局最後まで……」


 足に力が入らなくなったのか膝から崩れ落ちたアランを、ルフは支える。ぽたぽたと零れ落ちる雫達。アランの表情は見えないが、ルフはアランが父のことを思い出し、悲しそうな青年の顔を思い出す。咽び泣くアランを止められる者は誰一人いない。どうしようもない現実が五人の心に深い傷をつける。太陽の光も、月光もない地下の世界で、二つの魂は星へと帰っていった。焦げた翼は元には戻らないように、ルフ達は夢見る子供達には戻れない。冷たい世界で身を寄せ合い、今だけは足を止めて現実から目を逸らすのであった。

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