第3話 絶望しない方法があるのなら。

黒壁は、結構、焦っていた。僕との無駄話が、時間を与えてしまったのだ。僕は、105号室に駆け込んだ。丁度、検温の時間らしく、検温担当のバイトの看護師見習い、つまり、学生が、走り込む僕の顔に顔色を変えた。

「どうか、したんですか?」

僕は、聞こえないふりをして、莉子のベッドに駆け寄った。マットは、ひんやりと冷たく、もう、しばらく前に、ベッドを離れた様だった。ふと、ベッドのサイドテーブルに目が行った。

「何なんだ?」

目に入ったのは、サイドテーブルの上に置かれたメモ。ノートの切れ端に書き殴られた赤い文字が目に入った。

「これは、いつから、あるか?知っている?」

バイトの看護師は、メガネを掛け直しながら、じっと、僕の持つ、ノートの切れ端を見入る。

「まだ、そこまでは、回ってなくて・・・なんて、書いてあるんです?忘れ物を預かっているから、来てほしい?って」

看護師は、首を傾げた。

「ナースSTからの、誰かが、書いたメモですよね?それが、何か?」

「忘れ物って・・・その上」

僕は、ノートの切れ端を腹立ちまぎれに、クシャクシャに丸めて、ポケットに押し込んだ。

「え?何て、書いてあるんですか?」

「もういい!」

僕は、105号室を飛び出ていった。車椅子で、移動するとしたら、そして、誰も、気付かない場所としたら・・・。僕は、病室から外れた廊下に出た。そこから、上の階につながるエレベーターのスイッチを乱暴に叩く。リハビリの為に、移動なら、誰かの目に触れている筈。朝の送りで、みんなスタッフを聞いている。見かけたら、黒壁に伝えるはず。誰の目にも触れない場所を移動しているとしたら、あの場所しかない。莉子は、夫の出張中に転倒し怪我をしたとカルテに書いてあった。気になって、開いたカルテの中身は、不思議な出来事が書いてあった。第一発見者は、友人とある。女性で、莉子と同じ歳だ。様子を見に来たら、莉子g、階段ホールで倒れていたと言う。救急搬送され、下された診断名は、硬膜下血腫だった。脳の中に血の塊があり、なんとかなる、取り切ったが、残念な事に、脚に障害が残った。若いから、リハビリにかけよう。主治医の考えもあって、急性きのこの病院に転院してきたらしい。その時も、夫という人は、姿を見せず、莉子の付き添いは、その発見した友人だったという。ナースSTの話だった。莉子の夫は、彼女に会いたがらない。僕は、そう感じている。そして、その莉子の夫と友人は、何かありそうだと、看護師達は、噂しあった。そのせいもあってか、莉子の行動は、看護師達の好奇を引くらしく、常に話題の中にあった。

「だからって・・・」

誰が、こんな事を書くか?夫様にお会いして、あの日に忘れた物を渡したい・・・って。嘘でも、書いてはいけない。硬膜化血腫の術後、彼女は、情緒不安定になった事があったと、カルテにあった。自死しようとした事があったと。

「まさかだよな・・・」

他の屋上は、周りを囲むように、柵が回ってある。けど、ここは。エレベーターは、最上階を示し、僕は、飛び出ていた。最上階の廊下の突き当たりには、開けてはいけない扉がある。増設した時に、繋げようと作った足場のない扉がある。普段から、施錠してあるけど。もし・・もしも、空いていたら?嘘だろう?

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