渋谷ハチ公前

「ハチ公が出た」


友人から報告を受けた私は急いで渋谷に向かった。時刻は20時を過ぎた頃。


ハチ公前はいつも通り待ち合わせする若者や外国人観光客、キャンプファイアーを囲んで静かに語り合うボーイスカウトの面々でごった返していた。


彼らの間をぬって進んだ先にハチ公の像はあった。いつも通り3体あった。それらのハチ公は何かを見ている。同じものを見ているのかもしれないし、或いはそれぞれ別のものを見ているのかもしれない。それはハチのみぞ知るところだ。


私は友人に電話し、開口一番「ハチ公出てないぞ。ハチ公ここにいる」と報告した。


すると電話口から知らない女性の声で「命は奪われた」と聞こえた。


友人は男性である。果たして声の主は誰だろう。


私は電話を切り、道玄坂を登りながら二時間弱思考を巡らせた。せっかく登りきった道玄坂の先は行き止まりで、緑色のコストコ以外には何もなかったので帰った。



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