東京滑景

八重洲地下街

関西に泊まりの用があったので、新幹線に乗るため東京駅へ。時刻は20時を過ぎた頃。

私が降りた丸の内線の改札からJRの改札までは東京駅の地下、八重洲地下街の長い通路を歩く必要がある。


歩いていると、3〜4mほどの大きさのツキノワグマが地べたに座り、「カミソリいかがっすか〜」とフリーマーケットのようなものを開いていた。


地下なのに、と思いつつラインナップを見ると、ビジネスホテルのアメニティグッズが並んでいた。

T字カミソリはもちろんのこと、効果があるのかないのかよく分からない小さい歯磨き粉付きの歯ブラシ、体を洗う時に使う平たい布のようなものが入った真空のぺったんこのやつ、インスタントのお茶。


その中に東横インのハンドタオルがあったので、「お前これ!これはアメニティじゃないだろ!お前、お前ぇ!これ、お前ぇ!盗んできて、お前、盗っちゃだめだろ、お前ぇ!」とツキノワグマに詰め寄った。


ツキノワグマは「何を人聞きの悪い。仕入れたんだ私は。他のアメニティも全部、山で仕入れたんだ!」と咆哮し、その鋭い爪で私の顔を斬撃した。

「痛いな!」

私はそこで試着室のことを考えた。否、それは走馬灯だったと言っても過言ではない。服を着替えるためだけに作られた施設…。


新幹線の時刻が迫っていたので、痛みを堪えつつ急いでホームに向かった。


新幹線に乗り、喫煙所で禁煙パイポを吸っていると、卵焼きの帽子を被った成人男性が入ってきた。卵焼き男性は私を指差すと、「クマにやられたんだろ。情けない」と罵って笑った。

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