第5話 9月24日

昨日はどうやって家に帰ったのか憶えていない。


子供に話しかけられた恐怖で、その場を走り去ったところまでは憶えている。

それでも、まっすぐに家に帰るのが恐ろしく、あっちこっちに寄り道をして帰った。


何度もあの子供がついてきていなことを確認し、何度もあの子供が周囲にまぎれてないか確認しながら帰った。


今日はもうどこにも出かける気がせず、一日家の中で過ごすことにした。


幸いにして家の中にいても人間観察はできる。

その方法は、街中の監視カメラやお天気カメラを見るのだ。


もちろん欠点として、カメラに映る範囲でしか観察ができない。

でも、いまはそれで十分だ。


早速、街中に設置された定点カメラを覗いていると、あの時の横断歩道が映っていた。


あの時見た男性を思い出し、冷やりとしたものが背中を走った。

しかし、画面にはどこにもあの男性は映っておらず、ほっと一安心をしてカメラを見続けた。


いくつかのカメラを見て回っている時だった。画面に黒い点がついているのにきがついた。


始めは汚れかと思った。だが、画面を拭いても、カメラを切り替えても、黒い点は消えない。それどころか、少しずつ少しずつ大きくなっていく。


もう少しで、黒い点だったものは人の拳ほどの大きさになろうとしている。


その時だった。不意に玄関のチャイムが鳴った。

音につられて一瞬だけ画面から視線がそれた。再び画面を見ると不思議な事に、あんなに大きくなっていた黒い点は、どこにも映っていなかった。


不思議に思いつつも、鳴らされるチャイムに応えるため、インターフェイスのモニターをオンにし、そこに映っていたモノに私は恐怖した。


そこには、あの時の男性が写っていたのだ。

真っ黒のスーツをきっちりと着込んで。




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