第3話 9月22日
今日も趣味の人間観察をするぞと、謎の気合をいれて街に出た。
だが、気合とは裏腹に観察しがいのありそうな対象は見つからない。
昨日、一昨日と、魅力的すぎる観察ができた反動なのだろう。誰を見ても味気なく感じてしまう。
いっそうの事あの親子を探しに行こうかと思った。
その時だった。目の前に男の人が立っていたのだ。
より正しく言うのなら、横断歩道を挟んだ対岸側にその人はいる。
見た目は一般的な中年男性といったところだろう。が、いまだ暑さのあるこの時期に、きっちりとスーツを着込んでいる。
それなのに、暑さなど感じていないかのように、涼やかに立っているのだ。
それだけなら、たまたま見つけた街中のイケオジでしか無いのだろう。
それなのに、私はその男の人がどうしても気になり目が離せなかった。
時期に横断歩道は青信号となった。
まばらに人々は横断を始め、その中にあの男の人も混じっている。
その場に佇むだなんて不自然なことはできず、私も道を渡り始めた。
私と男の人の距離は少しずつ近づいく、少しずつ、少しずつ。
そして、その人とすれ違うその時だった。
『ミ つ ヶ た』
腹の底から響いているかのような低い声が、そう私に囁いた。
私は驚きとともに、背中が凍る思いのまま足を止めずに進んだ。
背中には男の人からの視線を感じたが、けっして振り返ってはいけないと頭の中で警鐘が鳴る。
やっとの思いで横断を終えた時、信号は再び赤を灯し、男の人はどこにもいなかった。
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