第8話チューイングはそのままで

「本日が最終日です」

 スケジュール帳に記入した吉田さんの短期アルバイト最終日。サークルの噂話で聞いたけど、今日は午前中からいるみたい。いつお昼ご飯食べるんだろう?

「おはようございます」

「おはようございます。あれ? 未来ちゃん、早いね。一番乗りだ」

 ええ、2時間前からスタンバイしてました。カフェで吉田さんのこと考えていました。ついでになぎさに、匂わせ発言をしていました。

「6級、一つ登れるようになりたいです。教えてください」

 吉田さんが笑顔になる。基本的に人に教えるのが好きな人だ。

「これがいいかな。足は自由だよ。今人がいないから、見ててあげる」

 カンテ、壁をつかったスラブの課題。まだ7級までしか登れない私。でも少しでもみんなに近づきたい。そう――――。

 私もボルダリング、好きになりかけてる。

「もう少し足を上げるといいよ」

「怖がらないで、右手マッチして」

 足を上げると安定する、腕を先にあげるとバランスを崩す。吉田さんがずっと指導してくれる。

「ゴールデンウィーク中には6級登れるよ。疲れただろうから少し休憩しな」

「でも今日中に6級登りたいんです」

 いつになく意地になっている私。吉田さんもとで6級を登りたかった。大学ではなく、吉田さんのバイト先という非日常で。

 お客さんがいるから、私一人にかかりきりになれない。でも、がんばりたかった。


 ボルダリング、なにかが悔しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る