第8話 よあそび

除夜の鐘が鳴り始めた。

今年ももう終わりだ。


しかしながら我が家ではじまった家族会議は、のっけからヒートアップしている。

姉が除夜の鐘からのご来光プランを友ダチと行くことを打ち明けたからだ。

友達の中に男の子が含まれていることがバレてから、議論は白熱している。


「夜遅く、男女混合のお泊まりなんてダメに決まってるでしょ。」

「泊まりじゃない。ナイトウォークよ。海まで歩いて行って初日の出を見てくるだけでしょ。」

「大体、先生の引率で行くなんて嘘ついて。今日たまたま、先生に会って話をしなかったら、そのまま行くつもりだったでしょう。」

 そんなやりとりが、もう二、三回ループしている。1ループするごとにギアが上がる。お父さんは間に入れなくてオロオロしている。


「世間の目を考えなさい。いかがわしい目で見られるのはわかってるでしょ。」

『世間の目』姉が一番嫌いな単語だ。

「いかがわしいのはそっちでしょ。コイツと毎晩変なことしてるの知ってるんだから。」

やめたげて、おトーさん顔が真っ赤よ。


「お父さんのことをこいつ呼ばわりはやめなさい‼︎」

母が大きな声を出す。姉も普段は「お父さん」と呼んでる。カッとなると見境がつかなくなるのが姉の悪いところだ。


「ちょっと家に金をいれているからと言って、父親ヅラさせないで!」

母の平手が飛んだ。姉の頬で大きな音を立てる。久々だ。

お父さん顔が真っ青。暴力ごとは嫌いそうだし。


「子供を殴ってはいけない。」

姉が、母に向きなおった瞬間に、お父さんが間に立った。

「大きくなって、揉め事の解決手段に暴力を使うことを学んでしまう。大人の世界ではそれは許されないことだろ。」

お父さんが静かに言う。母がしょげた顔をする。初めて見る顔だ。


「僕はともかく、お母さんとはせっかくの親子なんだから、嘘はいけない。そりゃ言いたくないこともあるのはよくわかる。全て親に報告する必要もないけど、大事なことは事前に言わないと。もう少し前に聞いてたら、きちんと落ち着いてお母さんも許可が出せたと思うよ。」

姉の方に向き直って言い、母の背中に手を添えて、さらに付け加えた。

「友達が待ってるんだろ、行ってくるといい。携帯忘れないように。何かあったらすぐに電話すること。すぐに迎えに行くからね」


その日の会議で決まったことは、家族の中で秘密はあっても嘘はつかないと言うことだ。


余談だが、姉は、翌朝早く決まり悪そうに帰ってきた。お父さんには内緒だが、特段何もなかったらしい。

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