第4話 元父
タイムセールが始まった。
たしか、鰤の刺身も安かった。
正直、そっちに行きたい。
「母さん結婚するだって?」
父が口火を切った。
「そうよ。式はあげないらしいわ。」
姉が答える。
「相手は、どんな奴だ」
あなたには関係ないでしょ。別れてから何年経つと思っているのだろう。
「一言で言えば、あれよ、頭がアンパンの例のアレに似てるかな。」
父が、キョトンとした顔をした。
「優しそうなひと。」
言い直した。今更フォローにもなってないな。アンパンのくだりがいらない。私としてはハンプティ・ダンプティーの方に似てると思う。
父が食いつく。
「そんな、奴と結婚なんてどうして反対しない。」
だから、あなたにはもう関係ないでしょ。未練がましいのが父の悪いところだ。
「普通に働いているし。」
「そんなの当たり前だ!」
いやいや、最近まで職安通いしていたあなたにそれをいう資格はないでしょう。
そんなんだから、母さんにも出ていかれる。まあ、自分のことはすぐに棚に上げられるのは、もしかしたらいいところかもしれない。
「別に反対する理由もないし。」
自分の実の父を目の前にしてよく言った。この人は未だに親父ヅラができると信じてる。
父も内心の動揺を隠しきれていない。
「籍はいつ頃。」
『入れるの?』が言えてない。そろそろ限界かな。
「向こうの親御さんが、ご存命らしいから、挨拶が済んでからって聞いてる。」
兄が答えた。父もこの兄には頭が上がらない。それもそうだろう、浮気を家庭に持ち込んデ、仕事も続かなくテ、養育費もまともに払えてないのだ。その辺のゴタゴタが発覚した時点で、兄は既に父と同じくらいの背丈だったと聞いている。この中でわたしの次に苦労している。
「そろそろ、家に帰らないと」
父が何か言いたげな顔をしたが、兄達は席を立った。
「椎ちゃん。バイバイ。」
はいさいなら。また学校で。
その日の会議後の結論は、一つ、子供との密会に、腹違いの娘を連れてこないこと。二つ、大人は余計なことは考えずに働け。ってことだ。
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