晴れの招待

あんちゅー

ようこそお越しくださいまし。

さぁさぁ、こちらへ。


私共、非常に待ち望んでおりました。


貴方様とお会いになれる日を。


どこかで会ったかって?


ええ、それはもう。


私共の中であなたを知らない者などおりませんとも。


それくらいにあなたは私共の憧れとでも言いましょう。


おお、そうだ、こういう時に使うのであればそう、アイドルなんていうのはどうでしょう?


ええ、そのように思っております。


さて、立ち話もなんですから、入口の方へお進み下さい。


ゆっくりと見て回って下されば。


着いてこないのかと?


滅相もありません。


この場所はあなたのあなただけの場所ですから、あなた以外には見に余ります。


おお、とても前向きでらっしゃる。


それでは行ってらっしゃいませ。



シルクハットの男はそういうと深々と頭を下げた。


俺は指し示された深い霧の中を沈んでいく。


少し歩いてみるとその先に一筋の光が差していた。


小さな小さな光だ。


おかしいと思った。


いや、おかしくないのか。


別にどうだっていい。


胸のそこにある泥溜り。


そこに何かが落ちて跳ねた泥が汚してしまう。


いつだってそうだ、と俺は独りごちる。


楽しそうな声が聞こえた。


あぁ、それはいい。


幸せな風景やその音は好きだ。


大昔には皆が……


何を言っているんだろう。


どうした、何が?


早く次に行こう。


あぁ、そうしよう。


見えたのは夏の大きな花火だった。


綺麗だ。


とっても。


綺麗な花火が咲いて、歓声が上がる。


大きな大きな歓声が。


止んでしまった。


誰の声も聞こえない。


煌びやかでカラフルな夜の花はいつの間にか咲かなくなっていた。


どうしたんだろう。


終わってしまった。


ねぇ、次に行こうよ。


そう……だね……


次は足取りがじんわりと重くなっている気がした。


どちらが痛いか分からないが、なんとなく痛い。


それでも自然とその先にもう一度光が差しているようだから歩いてみることにした。


そこは大きなネオン街だった。


大人たちは各々が赤い顔を浮かべて酔いどれていた。


楽しそうだ。


そうだ、一緒に混ざろうか。


それはいいね。


だよね?いいよね?


その言葉に素直に足を踏み出した。


すると直ぐに辺りはいっそう明るくなった。


人々は眠い目を擦り欠伸をした。


もう朝か。


あー眠たい。


解散しようぜ。


またそこには誰もいなくなった。


残念。まただね。


もう嫌だ。


そうかい?もう少しいけないかな?


……もう少しだけ。


そう来なくっちゃね。


また歩いていく。


ただ、不思議なことにいくら歩いても明かりなど差しては来なかった。


暗く、今度は静かだった。


いつまでもいつまでも。


何処まで進んだだろうか、周りの霧が濃くなってきているように感じた。


それは肌寒く水分を多く含んだ霧で、それらが身体中に纏わりつく。


鬱陶しく絡まり、果ては歩くことなど出来なくなっていた。


足が重く、いつの間にか体は泥まみれになっていた。



いつまで歩けばいい。


どこまで歩けばいいんだよ。


俺は叫んだ。


ただ、誰かそばにいないのかと、1人は嫌だと。


こんな事なら、俺も眠ってしまおう。


そうして眠りについた。



先日太陽がその活動を終えました。


我々のことを何万年と照らし続けてくれていた太陽の偉大さはいつだって忘れることは無いでしょう。


それでは皆さんさようなら。


いつかまた、どこかで生まれ変われることを楽しみにしております。


シルクハットの男は笑う。


どうやらこの宇宙はこれで終わりのようだった。









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晴れの招待 あんちゅー @hisack

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