カレナと、ハーブティー ー ④
お屋敷の台所も広かった。
ここに住む人達全員の食事を作っていたりするのだろう。
台所では、カレナと二人きりになれた。
「ミリエル様、メイド長を刺激なさらないようにお願いします」
「あら? どうしてかしら?」
カレナは周りに誰もいないことを確認してから、私の耳元に近づいてきてそっと教えてくれた。
「あの方、怒るととっても怖いのです」
どんな理由かと思ったら、可愛らしい理由だったので私は笑ってしまった。
「何で笑うのですか、本当のことです。もう!」
カレナの悔しがる様子も可愛かった。
「ふふふ。ごめんなさい。あまりにも可愛らしくて」
カレナはちょっと不貞腐れながらも、調理具のしまってある場所や、コンロの使い方を丁寧に教えてくれた。
調理器具については、私の家とさほど変わりなかった。
「ここに住まわれている方って、お茶を入れたりしますか?」
「全然しません」
カレナは、きっぱりと教えてくれた。
だからなのか、旦那様がお茶を珍しがって美味しそうにしていたのは。
「それであれば、もしかして茶葉なんかはあったりしません?」
カレナは深く頷いた。
「そうなのですね……。そうしたら、少しだけお庭から拝借させて頂きましょうか。カレナちゃん、お庭を少し案内してくださいますか?」
「案内するのは良いけれど、そう都合良く茶葉なんてあるの?」
不安がるカレナに教えあげた。
「どんな葉でも、お茶は楽しめます。ハーブティーというのです」
台所には、裏口が着いていた。そこから庭へ出ていく。
カレナが先頭になって、お庭に案内してくれた。
最初お庭を通った時のように、ふわふわと光が浮いている。
その中を進んでいくと、低木の生垣があるのを見つけた。
鼻を近づけると、良い香りがする。
精霊界の植物は、私の住んでいるところとは違っていて、初めて香る匂いがした。
その葉を少し摘まんで取った。
「えっ! ミリエル様、それをお茶にするの!?」
驚くカレナ
「はい。これも立派なお茶の源です。とても良い香りですよ」
私が取った葉を、カレナの鼻元へ持っていくと、クンクンと香った。
カレナは、匂いがあまりわからなかったようで、首をひねっていた。
「あまりわからないけれど、これってどのくらい必要なの? あまりとりすぎると、庭の妖精さん達に怒られちゃうよ」
「妖精さん?」
「このふわふわ浮いている光が妖精さんだよ」
カレナがそう言うと、ふわふわと浮かぶ光がこちらへ向かってきて、パンっと光を放つと蝶々のような羽の生えた妖精へと姿を変えた。
まるで作り物のような小さいお人形のようで。
小さいながらも造形が細かい。
生垣の葉っぱに乗ると、話しかけてきた。
「この葉の匂いに気づくなんて、君は良い嗅覚をお持ちで」
「お褒め頂きまして光栄です」
小さな妖精さんに向かってお辞儀をした。
「庭師も誰も気にしないでいてね。ただ外見だけを整えようと切っては捨ててる。君みたいな子なら、いくらでも積んでいって良いよ!」
「ありがとうございます」
カレナは、驚いた顔をしていた。
「へ、へえ。私もこの生垣の草はとても良いって昔から思ってたよ」
ふふふ。
カレナの手を取って、草に触らせた。
「こうやって、葉をこすってみてください。そしてその匂いを嗅いでみて?」
カレナは怪しがりながら、私にされるがまま葉を擦って、その手を鼻へと近づけた。
「……わっ! すごい! なにこれ!」
カレナの純粋な驚きが可愛かった。
「この植物の香りです。こすることでさらに匂いが強く感じられるのです。ハーブティーにすると、良い匂いが出てくると思います。少しだけもらいますね」
妖精さんも満足そうにして頷いてくれた。
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