アルミナスと、森の紅茶 ー ③

「そうと決まれば、ミリエル。君の家のお庭を少し貸して欲しい」

「狭いお庭ですけれども、構いません」


 アルミナス様は、すっかり体調が戻ったようで颯爽と庭へと向かった。

 私もリス達も、その後ろへと着いて庭へと行く。


 木々の木漏れ日が輝く庭。

 アルミナス様は、何やらぶつぶつと呪文を唱え始めると、大きな丸い輪が浮かんだ。


「これが、精霊界のゲートだ。ここから僕の家へと帰れる」


 扉のように浮かび上がった輪は、日に照らされてキラキラと輝いていた。

 ゲートが出来上がったのか、アルミナス様は、優しい笑顔をこちらに向けた。


「もしも、こちらの家に帰りたくなれば、いつでもここを通ってきて帰るといい」


 帰りのことも考えて下さる。お優しい方……。

 私も答えなければ。


「森の皆様。皆様、しばし私がいなくなる家を頼みます」


「任せて!」

「いつ帰って来ても良いように、いつもの茶葉を集めておくよ!」


 動物たちは、口々に優しい言葉をかけてくれた。


「ありがとうございます」



「それでは、行こう」


 アルミナス様が手を差し出してくれた。

 その手を取りながら答える。


「はい。よろしくおねがいします」


 ゆっくりと歩いて、精霊のゲートをくぐる。

 ゲートの中は、トンネルのようになっていて、向こう側にもゲートが見えた。

 トンネルはとても、綺麗な光に包まれていた。


「ここを通る時だけは、手をつないでいてくれ。途中で手を放してしまうと、僕が倒れてたように森の中に倒れることになってしまうんだ」

「分かりました。決して離しません」


 私がそういって手を強く握ると、アルミナス様は優しく微笑んでくれた。

 ふわふわとしている地面をしばらく歩いていくと、ゲートの終わりへとたどり着いた。


 ゲートを抜けるとそこには、大きな屋敷があった。

 くもりのない白い外壁が、日の光に輝いて見える。


 周りを塀に囲まれて大きな庭が広がってるようだった。

 その庭へ入る前に、門が道を阻んでいた。


「屋敷は、庭を含めて結界で守られていてね。ゲートを使う場合でも、ここまでが限界なんだ。ここからは手を放しても大丈夫だよ」


 ゲートを抜けてからも、ずっと手をつないでしまっていたことに気づいて、慌てて離した。


「すいません、つい……」


 アルミナス様は微笑んで、離れた手を門へとかざした。

 すると、ゆっくりと重そうな門が開き始めた。


 アルミナス様は私の方を振り返り、ひざまずいた。


「あなたは私の命の恩人です。悪いようには致しません。どうぞ、信用してください」


 透き通る緑色の目。

 嘘はついていないように見える。


「私はそんな大したことはしておりません。気になさらないでくださいませ。私なんかに、そんなに何度もひざまずかないでくださいませ」


 私の言葉に、アルミナス様は立ち上がると私の手を取った。


「ありがとうございます。それでは参りましょう」



 私たちは手を繋ぎながら庭へと入っていった。

 ここからは、ゲートではないと思うのですけれども……。


 庭の中には、花々が咲き乱れて、蝶のようなものが沢山飛んでいた。

 それと一緒に、光の玉のようなものもふわふわと浮かんでいる。


 赤、青、緑、ピンク、色とりどり。

 それらは、自ら発光しているようだった。


 強い光では無くて、優しい光。

 ほわほわと浮かんで光っていた。


「この光は、何でしょうか?」

「それは妖精だよ。うちの庭に好きに住んでもらっているんだ」


「綺麗ですね」

「ありがとう。それはこの子達にとってもすごい誉め言葉だよ」


 綺麗な庭を歩いてお屋敷の前へと着くと、ドアが開けられた。


「坊ちゃま!」


 そう言って背の高いメイド姿の女性が、アルミナス様へ抱き着いてきた。


「御無事で良かったです。心配で心配で……。移動先の方からの連絡をしてもまだ着いていないと連絡があって……」


「心配させてすまなかった。途中でこちらの人に助けてもらったんだ」

「こちらは、エルフ……」、いや、人間の匂いもします。ハーフ……」


 そう言って睨んでくる。


「まぁまぁ、そんなに睨まないで。彼女がどういった生まれかっていうのを気にしてもしょうがない。彼女自身を見て欲しい」


「坊ちゃまがそうおっしゃるなら、住まわせるのは構いませんが……」

「僕のフィアンセにすると言ったら何か不服かな?」


「絶対にダメです。妖精の王族たるもの、そのような方と」


 なんだか、言い合いになっている。


「しばらく、彼女の良さをみてみてよ」

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