第2話 今すぐ謝りに行け

 昼休憩。俺は玲奈が作ってくれた愛情弁当を持って屋上に向かった。秋村と馬谷がトイレに行った隙に走ってきたのだ。

 

 あいつらとご飯食べても碌なことがないからな。


「美味そうだな。流石我が妹だ」


 入っているのは冷凍食品のない全て手作りの弁当だった。一つずつ口に運んでみるとどれも想像以上にうまい。俺も料理はできるがこれだけの種類を作るとなると面倒で冷凍食品に頼ってしまうだろう。


 玲奈はそれを嫌な顔ひとつせずに作ってくれる。まだ中学生だというのにすごい妹を持ったものだ。


 俺が昼食を食べていると屋上の扉が開いた。まだ昼休憩中だ。他の生徒が利用することもあるのだろう。

 しかしーー、


「お、いたいた!想真ー!一緒にご飯食おうぜ!」

「兄弟こんなとこに居たのかよ。自己紹介の時に言ってくれりゃあよかったのによぉ」

「チッ」


 現れた秋村と馬谷に俺は舌打ちをした。


 どうやら俺の行動が読まれたようだ。出会って一年が経つから納得はできるが最近は見つかるまでの時間が短すぎる。


「今舌打ちした?」

「してない。それよりお前ら何しにきたんだ?俺はもう昼食べ終わるぞ」

「まだ食い終わってないならセーフだよ。俺の気になってる女の子のこと話したくてさ」

「俺っちはもう食ったから話にきたぜ」


 そうか。今すぐにUターンして帰れ。




「で、今日は誰に振られたんだ?」


 開口一番俺は秋村に話しかけた。毎日昼か放課後すぐに玉砕報告してくる秋村にはもう慣れている。今日もその報告になるのだろう。


「まず気になってる女の子から話しちゃダメか?」

「ダメだ」


 玉砕は否定しないんだな。そこだけは信頼できそうだ。あと気になってる女の子の話はしない。こいつは明日になればまた気になってる人が変わるからな。


「そっかぁ。じゃあまずは報告から。今日は2戦1敗1引き分けだったよ!」

「待て。2戦?」


 お前2人にアタックしたのかよ。まだ昼間だぞ。


「そうなんだよぉ!でも明日も他の人に告るから保留してくれたその子にもどうせ振られるだろうなぁ」

「そうか。クズだな」


 なんで明日告るの当たり前なんだこいつ。こいつの頭の構造を一度見てみたいものだ。


「クズって…まあ否定はしないけど。因みに告ったのは藍原妃さんと雪美祢麗花ゆきみねれいかさんだよ!」

「大分大物いったなお前。にしても藍原か、どっかで聞いた名前だな」

「忘れたのか!?あんな綺麗な子を忘れたらダメだぜ想真!今日一番最初に自己紹介してただろう?」

「……あぁ、あれか。…ん?お前…」

 


––––––––––––––––––––––––––––––


『藍原妃あいはらきさき。可愛いポイント80。美人ポイント95。大企業の娘であり最近まで金成かねなり学園に通っていたまさに天皇の妃のような美麗な女子生徒だ。一年の後半に転校してきた。その美しさと美貌に男子からの人気はかなり高く今日も早朝に1人の男子高校生から告白されたらしい』


––––––––––––––––––––––––––––––



 告白されたって、それお前のことかよ!通りで情報が早かったのか。まさかあの時既にの報告してたとは。


「変な伏線貼りやがって」

「あはは!まあな!っでその子が保留の子!雪美祢さんに告った時は「すいません、私職業柄誰かと付き合うことないから」ってお辞儀されて振られたよ!」

「当然だな」

「でも一度は告っとかなきゃ男が廃るだろ!?何せ今をときめく超有名アイドルだぜ!?毎日テレビに雑誌、ラジオ!聞かない日なんてないくらいだ!学校一の超美人女子高校生!学校のマドンナ!男子生徒の注目の的だ!俺は後3回は告るぜ!」

「やめてやれ変態」


 どうしようもないやつだ。馬鹿で無鉄砲。

 誰かと付き合うなんてことは一生ないだろう。一体何が目的でこいつは告ってるんだ。


「俺っちも昨日赤村に言われて告ったんだけどよぉ。せめて人として生きれるようになれって言われたぜ意味わかんねえよなぁ」

「秋村、馬谷で遊ぶな」

「いやそれがさあ!確かに告ってみろって言ったのは事実だけどこいつ放課後に俺を呼び出しやがったんだぜ!?」

「女子と一緒にか?」

「そう!」

「マジかお前」


 無意識に修羅場作ってるじゃないか。なんで告る時に友達連れてくるんだ。頭がおかしいぞ。こいつはこいつでどうしようもない奴だな。

 だがよく分かった。つまりそんなことをした時点で人として生きれるようにと言われたわけだな。


「本当にありえないよな!しかもこいつ女子じゃなくて俺に告ってきたから言ってやったんだ!せめて人として生きれるようになれってな!」

「それお前が言ったのかよ!女子がギャラリーとか斬新すぎるぞ!?」

「だって俺っち誰かに告ったことねえからよぉ。赤村ならもしかしたらいけるんじゃないかって思っちまったんだ」


 いけちゃダメだろ。


「道を踏み外すな馬谷。女子の気持ちにもなれ、呼ばれてきてみたら馬鹿が変態に告ってる現場を見せられたんだぞ」

「言い方酷くね!?」


 酷くない。お前たちが今からすることはそんな気色悪い現場を見せられた女子に贖罪を行なうことだ。

 今すぐに謝りに行ったほうがいい。


「まずは自分が人であることから自覚して告るところから始めろ。女子と付き合いたいならな」

「容赦ねえ言い方だな!はぁ、俺だって頑張ってるのに」

「俺っちもだ」


 馬谷、お前は何かする前に一度病院に行くべきだ。



ーーーー



 そんな会話があって昼休憩が終わり放課後になった。空は夕暮れ時だ。窓からはグラウンドでサッカー部と陸上部の掛け声なんかが入ってくる。それとは別に教室ではガヤガヤとした声が耳を掠めるが、


「悪い、俺はいつも通りバイトだから部活終わった後は先帰っといてくれ」

「分かった!馬谷!今日も助っ人入ってくれよ!」

「おう任せろ!ちょっと今からここで着替えるから待っといてくれや」

「更衣室で着替えるんだよ!こっちだ!」

「お?おう」


 さて、バイトの時間だ。俺はその足で図書室に向かった。そこが今日のバイト先である。

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