第16話 我、潜入する
「邪魔するぞ」
「誰かあるか! 偉大なる混沌の魔王様のご来訪である!」
「うっわびっくりした! 耳元でいきなり叫ばないでくれるかな!?」
「も、申し訳ございません……足跡の主に早く魔王様の御身の前へ馳せ参じよと言いたかったのですが……」
「もう少し空気読もうな?」
「は! 肝に命じます!」
「これでも反応は無し、か」
フレイが上げた大声は建物内を反響していったが、何者かが出てくる気配はない。
魔王は鼻を鳴らし、石とは違う硬質な床の上をさしたる警戒もせずに進んでいく。
「フレイよ」
「は!」
「真面目なのはいい事だが、多少は肩の力を抜くのも優れた部下というものだぞ?」
「は、はい……」
「そう言う所だ。我は怒っているのではない、話しているのだ。普段通りでかまわん。見知らぬ場所で緊張しているのかは分からんが、そうガチガチでは咄嗟の判断にも影響しかねん」
「は! 分かりました! 普通にします!」
「それで良い。で、だ。お前に聞いても分からんとは思うが……この材質は何だと思う?」
「これ、とは」
「この建物の壁や床だ。レンガでも岩でも木でもないこの材質、なんと見る?」
魔王は歩きながら壁を手の甲で軽く叩きながら後ろに付くフレイへ問いかけた。
壁や床はヒビこそ入っているが、街中よりかは劣化が進んでいない。
この研究所は他の建物よりも頑丈に、長持ちするように作られている事が伺える。
「コンクリート……に似てはおりますけれど……微細ではありますが魔力の力を感じますね」
「お前にも分かるか。我が寝ている間に建材も進化したという事だろうな」
「そして……滅びた」
「まぁな。だが世界全てを回ったわけではない。もしかすると地中の中でしぶとく生きているかも知れんぞ?」
「魔王様はご冗談がお上手ですね。いくらなんでも土竜のような暮らしは無理でしょう」
「なぜそう決めつける? 雨風や天災が及ばない分、快適やも知れん」
「なるほど……早計過ぎました」
「ただの予想というか、妄言に似ているかもしれんがな。建材が進化し、魔工学なる学問まで設立しているのだ。そこに好機を見出していてもおかしくないという事だ」
「私ももう少し思慮深く考えてみようと思います」
「うむ。期待している」
二人が歩いている廊下には壊れた扉がいくつか見受けられ、中に入ってみても会議室のようだったり、事務室だったりと大した情報は得られなかった。
廊下の突き当たりにあった階段を降りていくと、やたら小綺麗なフロアに出た。
地上階とは雲泥の差であり、人の手が入っているのではと思わせるほどだ。
壁や床にヒビ割れは無く、砂埃やゴミひとつ見当たらない。
特筆すべきは天井に等間隔に取り付けられた細長い棒状の物。
それが眩しいほどの白い光を放っているのだ。
魔法の明かりとは違う、魔力を感じない冷たい明かりだった。
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