第15話 我、痕跡を見つける
フレイも後を追って城の外へ飛び出し、音も無く地面へ着地した。
魔王は明かりを作ること無くフレイに向き直り、言った。
「フレイよ。これから我は西側に赴く。お前は東側を当たれ」
「お言葉ですが魔王様、私は生を受けて間もないです。何が重要なのかが分かりかねます」
「あーそっか。なら一緒に行くぞ」
「ありがとうございます」
「明かりは消していく。もしかしたら光に弱い何者かが潜んでるやもしれん」
「なんと……! いるかどうかも分からない存在にまでお慈悲を向けるとはさすが魔王様でございます」
「そ、そうか?」
「はい。さようでこざいます」
「まぁ良い、行くぞ」
「は!」
人が居た頃は大勢の人間が行き交っていたであろう道路を歩いていくこと数分、魔王がピタリと足を止めてしゃがみ込んだ。
「もう何かを見つけられたのですか?」
「ん……見つけた、といえば見つけたが……大したことでは無い」
「どうかこの愚かなフレイにご教授願えませんでしょうか」
「見て分からんか? 足跡だ」
魔王がしゃがみ込んだ場所には、道路を横切るように人間の足が踏みしめた後が残っていた。
砂塵などで消されていないところを見ると、比較的新しいもののようだ。
しかしその大きさが魔王の知る人間のものよりも、かなり小さい、言うなれば少年少女程度の大きさしか無かった。
「足跡ですか!? これは素晴らしい発見ですね! さすがは魔王様でございます!」
「喜んでいいものかどうかは分からんが……一歩前進といった所だな」
こんな明かりも食料も水も無いような場所に残る、小さな足跡。
常識的に考えてみれば異常な事だ。
生物は水、食料が無ければ生きていけないのだから。
「さて……一体何が出てくるのか……楽しみだな」
呟きと共にすっくと立ち上がった魔王は闇に染った足跡の先を見つめ、口角を僅かに緩ませながらゆっくりと歩き出したのだった。
魔王とフレイが足跡を追って歩く事一時間、目に入る街並みはやはり荒廃していて人が存命出来るような環境ではなかった。
やがて二人は小高い丘の上に建つ大きな建物の前にやって来ていた。
建物の前には金属製の柱に取り付けられた看板があった。
かつてはこの建物の名を周囲に知らしめていたであろう看板は大きく傾き、錆や腐食が激しいながら辛うじて読み取る事は可能だった。
「ドュレーユ……魔工学……研究……所?」
「マコウガク? とは?」
「知らん。我が健在だった頃にそんな名称は存在しなかった」
「となれば……魔王様がお眠りになられた後に発足したとみるのが正しいですね」
「そのようだな。工学という言葉は知っているが……字から察するに魔力を取り入れた工学のようだ。ここでその魔工学なるものを研究していたのだろう」
「流石魔王様。僅かな字面からそこまでの情報を見出すとはまさに端倪すべからざるお方」
「それはさすがに褒めすぎじゃない? 読んで字の如しだよ?」
「いえいえ! 全知全能なる魔王様です。いくら私が下賎な口を開いて賛辞の言葉を述べようと、それは魔王様にとって当たり前の事をお伝えしているだけでございます」
「うーん、まぁちょっと意味わかんないけど、ありがと」
「そっそんな! 魔王様からそのようなお言葉を頂けるとは……! 感無量でございます」
フレイは己の無知を恥じつつも、己の主人の知識の深さに脱帽していた。
この方はやはり偉大な魔王、世の理の全てに精通し、あまねく世界を照らすお方だ。
気付けばフレイは魔王の背後で跪いており、全身で喜びに打ち震えていた。
「ほれ、跪いてないで行くぞ」
「は!」
魔王から若干戸惑いの視線を感じたが、フレイは気にもとめずに先を進む偉大な背中を追い掛けた。
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