第14話 我、タイタンを見直す
「お、これこれ……タイタンめ、やはり入れていたか。魔法生物のくせに知恵の回る奴よ」
「魔王様、それは?」
悪どい笑みを浮かべている魔王の手には、掌に収まる程度の大きさの小箱が握られている。
鳥が飛翔しているような模様が描かれた、非常にシンプルな作りの箱。
その箱を無造作に開き、中から小さなガラス細工のような物を取り出した。
「これはな【夜守りの眼鏡】という魔道具だ。人族のメガネという物をモチーフにして我が昔作った物だ。というかまんまだな。これを着用すれば夜でも日中と変わらない景色が見える、お前にやろう」
「そんな! 恐れ多い! 確かに日が落ちるにつれ、視野が狭くなってきておりますが……魔王様直々にお造りになられたアイテムを着用するなど!」
「拒むか……ではそれを付けず我の足手まといとなりたいのか?」
魔王がそう発した途端周囲の温度が一気に下がったような気がして、フレイは全身を震わせる。
創造されたばかりのフレイと言えど、魔王の力はよく理解している。
今、自分の発した言葉が魔王の琴線に触れてしまったのだと理解したフレイは掌を返したように――。
「滅相もごさいません! ありがたく頂戴させていただきます!」
「うむ、それでよい。過度の遠慮は逆に不快を呼ぶと知れ」
縮こまるフレイに対し、目を細めて言い放つ魔王。
傲岸不遜を地で行く魔王は、自らの好意や施しを断られる事を嫌う。
過去の臣下であれば、魔王の施しを断わる者はいなかっただろう。
しかしフレイは創造されたばかりの新参者。
対応に不備があっても仕方の無い事と言えた。
「は……誠に申し訳ございません」
「よっし、解れば結構。そしたら少し探索しに行くか。食事はタイタンが色々バッグに入れてくれたみたいだからな。そっちの心配は無い、安心しろ」
見た者を射殺すかのような鋭い眼光は、瞬時に柔和な眼差しへと変わり、口角をほんのり上げた魔王はゆっくりと足を進める。
「さすがに中は暗いな」
廃城に足を踏み入れた魔王が指を一度鳴らす。
たったそれだけで周囲に二つの光球が生まれた。
光球は意志を持つかのようにふわふわと漂い、魔王とフレイの周囲を照らし出す。
「参りましょう」
「それ、我のセリフな」
魔王から譲り受けた、夜守りの眼鏡を着用したフレイが胸を張って先頭に立つ。
その顔立ちはまるで優秀な事務員のようにキリリと引き締まり、強い意気込みを感じさせるものだった。
魔王とフレイは城の内部を隅々まで調べ、見逃しが無いかを杞憂して三度ほど周回した結果。
「なんもないじゃん!」
やはり世界が滅びた理由への手掛かりは一つも無かった。
あったとすれば、一階部分が恐ろしく荒れ果てていた、という事ぐらいである。
ここで戦争があったのかと思わせるほどに家具は倒れ、調度品は壊れ、カーペットが何故か天井のシャンデリアに引っ掛かっていたりと目を疑うような光景が広がっていた。
そして部屋や廊下などの至る所に大量の砂が積もっていた。
「ったくも!」
魔王が腹立たしさを壁にぶつけるべく拳を握り、振り下ろそうとした時の事。
夜守りの眼鏡をキラリと光らせたフレイが、実に堂々とした態度で口を開いた。
「いえ魔王様。ひとつだけ見つけました」
「何!? 我が見逃していただと! それは何だ!」
「はい。何も無いという事実を発見致しました」
「なるほどな……ってコラ。誰がトンチ効かせろって言った? はっ倒すぞ?」
「もっ、申し訳ございません! 何も無い事に苛立っておいででしたので何かご報告をと思い!」
「良い。何も無かった分、お前の気持ちは嬉しい。イラッとしたのも事実だが……まあ不問にしよう」
「は! 有り難きお言葉!」
「街に出てみようか」
「はい! 直ちに荷物を!」
「荷物はあのままで良い。どうせ盗むやつもおるまい」
「かしこまりました!」
魔王が手を振り上げると、石造りの壁が砂粒にまで分解されてサラサラと崩れ去った。
ぽっかりと空いた穴の向こう側は闇に染った市街が広がっており、それを一度睥睨した魔王は軽く跳躍し、城から出た。
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